好きな漫画家の作品が実写化されることに、不安を覚えるファンは少なくないでしょう。しかし、押切蓮介氏のホラーマンガ『サユリ』は、押切氏が「ファンだった」という白石晃士監督が実写映画化したことで、原作者本人も満足するものになっています。いや、それどころかJホラー映画史に残る傑作になっているかもしれません。
おばあちゃんが念じた大切な言葉
Jホラー史において記念碑的な作品になりそうな『サユリ』の舞台となるのは、海沿いの地方都市にある中古の一軒家です。中学3年生になる則雄(南出凌嘉)たち一家は、広々とした家に引っ越したことを喜びます。しかし、怖がりの弟・俊(猪股怜生)だけは、この家に潜む不気味な気配を感じて、怯えていました。
高校に通う長女・径子(森田想)の様子が、まずおかしくなります。いつもは優しい性格なのに、夜中まで起きていた径子は、俊に容赦ない暴力をふるうのでした。さらに父親の昭雄(梶原善)、祖父の章造(きたろう)らにも異変が起きます。
一家を襲う大惨事に、認知症が進んでいた祖母の春枝(根岸季衣)がふいに覚醒します。すべてはこの家に取り憑く悪霊の仕業であることを見抜き、オロオロする則雄にこう告げるのでした。
「命を濃くしろ!!」
生命力を高めることで、悪霊に立ち向かえと春枝は言うのです。もともと春枝は、太極拳の師範でした。則雄に家の中を大掃除させた上で、ご飯をモリモリ食べさせ、太陽のもとでの特訓を施します。則雄に明るい日常生活を送らせながら、春枝は着々と悪霊退治の準備を進めるのでした。
映画『サユリ』ポスタービジュアル
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TV放映が心配になる、破壊力抜群な名ゼリフ
この春、スマッシュヒットしたミステリー映画『変な家』でも元気にチェンソーを振り回していた大ベテラン女優の根岸さんが、悪霊を相手に大活躍します。押切氏のサバイバルホラーマンガ『ぐらんば』が実写化された際には、こちらもぜひ根岸さんに主演してほしいものです。
主人公となる則雄を演じたのは、オーディションで選ばれた南出凌嘉さん。同じ中学に通う霊感少女の住田(近藤華)との甘酸っぱいシーンに加え、悪霊に対して最高級の決めゼリフを放ちます。則雄が口にするこのセリフは、白石監督が小学校時代に女の子から教えられた言葉だそうです。原作マンガにはないこのセリフ、実生活でも魔除け代わりになりそうなくらい破壊力抜群です。実際に白石監督の高校時代、金縛りに悩んでいた女子にこの言葉を教えたところ、金縛りに遭うことがなくなったそうです。
ホラー映画なのに、笑えて、せつなくなり、そして最後にはほっこりした気持ちになれます。それは原作者の押切氏も、白石監督も、人間の生命力というものを常に大切に描いているからでしょう。決して、バイオレンス描写の過激さだけで注目を集めているわけではないのです。
8月8日に行われた完成披露舞台あいさつでは、登壇した押切氏は「クラスでずっと狙っていた女の子と両想いになった気分」と白石監督とコラボできた喜びを語っています。
漫画家と映画監督との最高のマリアージュ作、ぜひ劇場で楽しんでください。テレビ放送では、則雄の名ゼリフが禁止用語扱いされる可能性がありますから。
映画『サユリ』
原作/押切蓮介『サユリ 完全版』(幻冬舎コミック)
監督/白石晃士 脚本/安里麻里、白石晃士
出演/南出凌嘉、近藤華、梶原善、占部房子、きたろう、森田想、猪股怜生、根岸季衣
配給/ショウゲート 8月23日より全国公開中
(C)2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス