同期の大関友翔と切磋琢磨しながら。イメージはウォーカー? プジョル? J3の福島でいぶし銀に貢献する19歳の右SB松長根悠仁の現在地【インタビュー前編】

「なんでいるんだよ!」

 インタビュー室のドアを開けた瞬間、19歳の松長根悠仁のツッコミが飛ぶ。

 川崎アカデミーで切磋琢磨し、今季からともにレンタル移籍でJ3の福島に加わったMF大関友翔に向けたものだ。

 経緯を説明すると、松長根の前に大関のインタビューを行なっており、大関から「ナガネのインタビューを少し後ろで見ていって良いですか?」との申し出があったためだ。その前には大関は松長根の車にちょっとしたイタズラもしていたらしく、ふたりの仲の良さが窺える。

 大関が見学した冒頭の数分、喋りにくそうな松長根の姿に申し訳なさを感じながら、ひと通りの茶々を入れつつ、大関が部屋を出ていったあとも、松長根の実直さが表われる言葉の数々が続いた。

 改めてふたりは対照的な性格と言えるだろう。高いコミュニケーション能力を誇る福島の新たな中盤の顔である大関はプレー同様に雄弁で、福島で右SBを務める松長根はまさにいぶし銀。口数は決して多くないが、内に秘めているものは熱い。
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 松長根は川崎アカデミー時代はCBとして、先日、パリ五輪にも出場した高井幸大とコンビを組んで川崎U-18の躍進に貢献。そして高校3年時の6月には大関とともに2023年のトップ昇格内定を勝ち取った(高井はふたりより先にプロ契約)。

 もっとも179センチ・75キロの体格を鑑み、プロではSBに本格的に転向。好きな海外選手にカイル・ウォーカーを挙げるように、粘り強い守備とともに脚力を活かしてサイドを駆け上がる姿が魅力だ。

 普段は愛されキャラだが、ピッチに立つと人が変わったように熱血漢になるのも彼の真骨頂である。その魂のこもったプレーは、大袈裟だと言われるかもしれないが、個人的にはバルセロナのレジェンドである、カルロス・プジョルを想起させる。

 ウォーカーは178センチ・73キロ、プジョルは178センチ・80キロと公表されているだけに、SBとCBをこなす面を含め、やはり類似点はあると言えるだろう。
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 松長根はプロ1年目だった昨季の川崎で、思いのほかデビューの時を早く迎えた。最終ラインに怪我人が重なったこともあり、リーグ3節(3月4日)の湘南戦(△1-1)で後半途中に幼少期から通っていた等々力で嬉しいプロデビューを果たすと、4日後のルヴァンカップ・清水戦(●2-3)では先発出場。SBとして積極的なプレーを見せた。

 しかし、4節の新潟戦(●0-1)でも途中出場したものの、その後は怪我人の復帰などもあり試合から遠ざかる。7月の天皇杯の水戸戦では再び先発を勝ち取ったが、雌伏の時を送った。

「怪我人が出て、気付いたらベンチに入っていて、いきなり試合っていう感覚で、だから当時は緊張というか、デビュー戦も忘れられない記憶なんですが、あっという間の出来事でしたね。ただ『やってやるぞ』という想いは強かったですし、あの時は手応えをそれなりに感じていましたし、ポジティブに考えていました。(先発した)清水戦でも結構やれるかもなっていう印象を持っていたんです。でも経験ある選手が戻ってきて、やっぱり仕方ないと思う部分もありつつ、悔しさはありました」

 その後は人数の関係もあって、紅白戦も外で見ている時間などが増えた。

「やっぱり複雑な気持ちはありました。ただ、寮の先輩ら、(DF佐々木)旭くん、(FW山田)新くん、(DF大南)拓磨くん、(MF)瀬川(祐輔)くんらに話を聞いてもらったりして、自分の成長に目を向けようと、整理して練習に臨むようにしていました」

 それこそ今季から福島で初のプロ監督に挑んでいる、当時、川崎のコーチであった寺田周平氏らに付き添ってもらいながら、ヘディングでのボールの撥ね返し方、守備対応、ライン際でのボールの受け方、クロス…SBに必要な様々な能力をレベルアップさせようと励む松長根の姿が居残り練習では常にあった。

 ユース時代はCBとして過ごしてきた時間が長い。だからこそSBの動きを自らに叩きむには時間がかかるのだろう。

 努力を続け、迎えた昨年12月のシーズン最終戦、ACLグループステージの第6戦であった韓国での蔚山現代戦(△2-2)。すでにグループステージ突破を決め、3日前には天皇杯制覇を果たしていた川崎は、数人の若手を組み込んで蔚山戦に臨んだなか、松長根は先発として久々の公式戦出場を果たした。
 もっともプロとしてSBの世界を知れば知るほど、自らへのハードルは高くなっていたのかもしれない。

「できた部分とできなかった部分が、はっきり分かれた印象でした。それとやっぱり経験が足りないなって感じた試合でもありましたね。

 韓国王者(2023年のリーグ王者)を相手にビビらずにと言いますか、アグレッシブにいくことはできたのですが、守備、体力的な部分、強度的なところもまだ足りなかったなと。守備も特に後半に疲れが出始めてからやられ出しちゃったので、そういうところが必要でした」

 前述したとおり、3日前には決勝戦でPK戦の末に柏を下し、天皇杯を制する先輩たちの姿を見たばかりだった。

「決勝戦は苦しい内容だったと思うんですけど、最後ああやって勝ち切れる、勝ちに持っていけるっていうのは、何か気持ち的な部分を含めてすごいなと。そういうところはやっぱり見習わないといけないと感じました」

 特に同じ右SB山根視来(現ロサンゼルス・ギャラクシー)のプレーはシーズンを通じて動画を何度も見返すなど、吸収できるものを吸収しようと取り組んできた。

 それでも自分にまだ力が足りないことは痛感していた。リーグ戦2試合(79分)・0得点、ルヴァンカップ1試合・0得点、天皇杯1試合・0得点、ACL1試合・0得点、そんなプロ1年目を終えた松長根に舞い込んできたのが福島へのレンタル移籍のオファーだった。

「さらに成長するには、やっぱり試合に出て、経験値を増やす必要があると考えました」

 1年の活動を終えた日に毎年行われる川崎の解散式、来季の福島の監督に就任することが決まっていた寺田コーチからも声をかけられた。

「解散式の時に周平さんからも話をしてもらえて。前向きに挑戦してみようと思いました」

 大関はともに福島へ、同じく同期入団のMF名願斗哉は仙台へレンタル移籍することになっていた。だからこそともに新天地での奮闘を誓い合った。

 移籍する際、憧れの先輩・山根からも短いメッセージをもらった。

「頑張ってこい」

 こうして松長根の新たな挑戦が始まった。

後編へ続く

■プロフィール
松長根悠仁 まつながね ゆうと/2004年9月14日、神奈川県生まれ。川崎U-12―川崎U-13ー川崎U-15―川崎U-18―川崎―福島。アカデミー時代は主にCBを務め、プロではSBを極めることを決意。日々、研鑽を積んでいる。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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