終盤戦に入ったJ1で首位に立っている町田。史上初のJ1初挑戦での優勝に向けて邁進するなか、夏の移籍マーケットで分厚い補強でも注目を集めた。そのなかでもDF中山雄太の加入は大きな話題となった。
中山は柏レイソルで2015年にプロキャリアをスタートすると、19年にオランダのズウォレに完全移籍。その後、22-23シーズンからはイングランド2部のハダースフィールドでプレー。日本代表では19年の初招集から22試合に出場している。
そんな27歳に、今回インタビューを実施。町田加入の経緯、5年半ぶりのJリーグ復帰戦となったジュビロ磐田戦、黒田剛監督の印象、今後の決意などを訊いた。
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――町田への移籍は電撃的でした。加入までの経緯を教えてください。
5月初旬にリーグが終わって、ハダースフィールドとの交渉も断り、フリーで移籍ができる状態でした。なかなか5大リーグやチャンピオンシップのクラブからのオファーもなく、粘って、粘って、決定したタイミングが、電撃だったという感じでしょうか。
(膝の靭帯損傷の)怪我があって、実力よりも怪我のリスクでオファーしないというチームからの返答もありました。海外に残りたい気持ちもあったのですけど、現実と理想がなかなかマッチせず。あとは、やっぱり単純にサッカーをしたくなりましたね(笑)。
――町田の練習に参加してみて、どのように感じましたか?
強度が高いですし、インテンシティが高いと言われているチャンピオンシップ(イングランド2部)と、似たような感覚です。そういうところでやりたかったので、期待通りです。ギャップの無さは、自分にとってすごくポジティブです。
――加入早々、8月17日のジュビロ磐田戦(4-0)でフル出場を果たしました。どのような準備をされたのでしょうか?
チームに合流後、練習は3日間でした。個人では試合が5か月ぶりだったので、自分のできること、まだできないことを分析して、チームとしては、コンセプトを理解して合わせる点を意識していました。
――久しぶりの公式戦で、自身の手応えは?
身体は問題が無かったのが成果です。“目の部分”では、実戦を離れていたので、普通の状態だったら見える位置も、見えないという割り切りでやっていました。脳的なアプローチは、自主練やリハビリと違い、公式戦の外的要素があるなかでの刺激はどうしても限界があるので。そこのギャップは仕方ないです。怪我については、違和感もなく、もう全く問題ありません。
――相手のエースであるFWジャーメイン良選手を抑えているように見えました。
ファウルでも良いから止めるくらいの気持ちでした。ファウルの基準は、自分が思ったよりも流してもらったり、一方で『あ、ここも取られるんだ』という場面もありました。自分のコンディションが上がってくれば、良くなるイメージもあります。まあ及第点かなと思いますね。
――開始4分にはさっそくJリーグ復帰後初ゴールを決めました。
ラッキーだった感じです。自分の目がまだ慣れていなかったので、練習で上手く頭にボールを当てるプレーが、あまり良くなかった。逆に、良くなかったからこそ、当てることだけに集中しました。コースは、良い場所に行って良かったという感覚でしかないですね。
ここ2シーズンや、日本代表では役割的にセットプレーでゴールに絡むケースは少なかったのですが、柏やオランダでは結構決めていました。基本的には点を取りたいですし、自信はあるので。あとはチームのコンセプト次第ですね。得点はチームの助けになるので、チャンスがあれば、狙っていきたいです。
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――現在のコンディションは、何パーセント程度でしょうか?
“現状の100%”という考えが常にあります。イメージとしては、トップコンディションが100というよりも、今の100%を少しずつ上げていく感じですね。完調ではなかったのは隠さないですし。それは仕方がないので。続けて行って、100%が大きくなっていくようにするだけですね。
――磐田戦は自身にとって5年半ぶりのJリーグでの試合でした。その意味での違和感はあったのでしょうか?
特に日本だからとかは、関係ないですね。どのチームと試合をしようが、勝つという目標に対しては変わらないです。日本だから、海外だからというよりも、実戦が5か月ぶりという自分に対してのアプローチを重要視していました。
――欧州帰りの選手が、Jリーグの判定基準とのギャップに苦しむケースもあります。中山選手はどうでしたか?
正直、全部が全部、判定に納得できたわけではなかったですね。レフェリーの方に対して『これは普通だ』という趣旨の発言もしました。どのようにレフェリーの方が捉えられたかは、分からないですけど。自分が慣れていくか、Jリーグが自分の意見に対して定義してくれるのならば、それも良いと思います。
――チームに馴染めているという感じはありますか?
チームの雰囲気と感じは分かってきました。あとは、自分が慣れ過ぎず、チームの勝利に欠かせない一人のピースになれるように、日頃の過ごし方をするだけだと思っています。馴染むことは大事ですけど、慣れたくはないと思っているので、そこはしっかりとやっていきたいです。
――慣れたくはない、とは具体的には?
慣れると、見えるものも狭まってきてしまう。常に自分は『これがベストじゃない』『もっとベストがある』という感覚でやっていきたいので。現状に満足することなく、という意味合いです。 勝っているからオッケーではないですし、勝ち続けるためには何が必要かを、常に考えていきたいと思います。
――ポジションはセンターバックが基本になるのでしょうか?
チームのコンセプト次第です。町田に来た以上、指示されればフォワードでもやります。
――黒田監督の印象はいかがでしょうか?
皆さんと大きく変わらないと思います。勝利に対して、全く甘くなることがない人。勝利について、本当に一番考えているのではないかなと。それが言動に出ている人だと思っていました。会って、それをより強く感じたので、第一印象から、あまり変わらないですね。
(かけられた)言葉自体もそうですけど、その言葉が出てくる視野の広さが印象的です。誰もが気づいていないタイミングで言葉をかけてくれるので、人よりも見えているものの高さが高いし、見えているものが多いと思います。
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――5年半の海外生活で成長された部分はどういった点でしょうか?
メンタルが一番大きいかなと思います。だけど、別に何かを成し遂げて帰ってきたわけではないですし、自分としては、まだまだ野望の半ばだと思っています。成し遂げていないからこそ『まだまだやれる』『まだまだ必要だ』と思ってやっているので、“何”とは言えないですね。引退した時に、たぶん言えるのではないでしょうか。
自分の経験を捉えるのは周りの選手で、別にそれが良いと思わなければ不必要に取り込まないでいいです。自分がやってきた5年半の海外の経験に自信はあるので、それを表現していくのはもちろんですけど、それがチームにいらないと言われれば、変えなければいけない。あと、自信はあっても、そこに驕りはないので。成長に繋がるのであれば、惜しみなく取り入れていきたい感覚ではあります。現状に満足することなく、常に上を目ざしてやっていきたいです。
――さて、31日には国立競技場で浦和レッズと対戦します。意気込みをお願いします。
ホームとはいえ、普段とは違うスタジアムなので、どうしても、いつもと違うものの状況から生まれる何かが想像できます。自分は、免疫や経験があるので。戸惑いがあるような選手に対しては、しっかりとアプローチしていきたいです。それが勝利への準備に繋がると思います。国立開催でより注目されると思うので、しっかりと対処し、良い準備ができればと思いますね。
――10月の34節では古巣の柏レイソルとの試合があります。
もちろん、お世話になったクラブなので感謝の気持ちでいっぱいです。ただ敵である以上、勝利を目ざしてやっていきたい。それが単純に礼儀だと思います。もちろん自分はいろいろ考えたうえで、決断しました。自分は町田にいる以上、今いる所でやれることをやるだけです。それに対して、柏サポーターの皆さんがいろいろ思うことがあれば、思っていただいて、それがサッカーだと思うので。自分ができることをやって、柏戦も勝利を目ざしたいです。
――今後の目標は?
優勝するために来ました。ただ、自分が入ったタイミングでは、黒田さんが1回、『優勝は置いておいて、やるべきことをやろう』と言っていたので、そこには自分が知らないチームの現状へのアプローチがあったはずです。
少なからず期待はされているとは思っていたので、その気持ちも含め、いろんなものを背負ってやっていく覚悟も、入団に踏み切る時にイメージをしていました。いろんな期待はかけてもらっていいですし、その期待に応えなければいけないプレッシャーも背負ってプレーで表現したいです。
僕は優勝を目ざして入ってきているので、そこの気持ちは持ちつつ、フレッシュな気持ちのパワーをチームに還元できればいいと思います。優勝に向けてチームを引っ張っていけるような選手として、最終節までやっていきたいです。
取材・文●野口一郎(サッカーダイジェストWeb編集部)
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