「…」に込めた“間”の表現
――初の小説を書くにあたって、誰かに相談しましたか?
いや、まずは1人で書き上げてしまって、「なんかできたわー」ってマネージャーに渡したら、「これ出版しましょう!」とそこからいろいろかけあってくれて、角川さんが出版を決めてくれたという経緯なので、執筆の段階で誰かに相談することはなかったですね。
ただ、正式に出版が決まってからは、小説のいろいろなルールを教えてもらいました。そのうえで、いっぱいムリを聞いてもらったりはしましたね。
『くちを失くした蝶』の中では3点リーダー(…)を多用しているんですけど、それは通常、小説ではしないことらしいんですよ。でも僕の中では、ちょっと脚本みたいなところがあって、僕が頭の中で演じるとおりに読者に伝えたいというか……。読んでいる人に間を任せるのではなく、こういう記号を使うことで、僕が考える“間”を正確に伝えたいというこだわりがありました。
プロの小説家の方は、「沈黙が包んだ」みたいな表現を駆使して伝えられるんでしょうけど、それよりも直に伝わる方法として、三点リーダーを多用させてもらって。だから、ちょっと素人っぽさが出ているかも知れませんが、譲りたくないこだわりでした。
出典: FANY マガジン
――ほかに、作品の中でこだわった部分はありますか?
つじつまだけはズレないようにやろうと決意して書きました。そのへんは神経質なんです。出版が決まっているわけではなかったし、誰が読むわけでもないのに。だからこそ、時系列とかのつじつまは絶対に合うように、ミスがないように、そういうことは自分に課していた感じがありましたね。
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「星田英利」を忘れて読んでほしい
――実際に本が完成して発売を待っている、いまの気持ちはどうですか?
まず、もちろん嬉しいです! こうやって自分の名前が刻まれた本が出版されるなんて、夢みたいですよ。ただ、ひとつ不安があって、もしかすると、僕が書いた本だということで、手に取らないという方も少なくないだろうなと。もしくは、読んでくれたとしても、僕というフィルターがジャマをして、迷惑をかけちゃうことがあるだろうと思うんです。
そうならないように、本当は「星田英利」という名前を出さずに出版してほしいとお願いしました。読者の方には、ストレートにこの人ら(登場人物たち)に会ってほしかったんです。でも、そうするとこういう(インタビューの)機会もないわけですし、宣伝方法も限られてくると言われて断念しました。だから、この本を手にとってくださった方には、僕のことを忘れて、ミコトたちに会ってあげてほしいんです。
――ピース・又吉直樹さんがお笑い芸人を主人公に『火花』を書いたように、自身に近い世界の話を書こうとは思いせんでしたか?
僕は完全フィクションでよかったと思っています。自分のことを書くのはいつでもできるし、僕の性格だとなんとなく気恥ずかしいんですよ。また、自分を捨てて、まったく別のものにすがりたかったという気持ちもあったのだと思います。