塩貝健人はなぜNEC移籍を決断した? CLに出るようなクラブからオファーもあったが...「キャリアプランから逆算」「最終目標はレアル・マドリー」【現地発】

 NECのクラブチャンネル『NEC TV』に塩貝健人が出演した。

「慶応義塾大学から来ました塩貝健人です。ポジションはフォワードで、力強いドリブル、スピード、得点力が特長です」

 この番組の最後に「塩貝選手から何かプレゼントはありますか?」という質問があった。

「今、直接渡せるものはないので、シーズンを通して自分が活躍し、得点王という形でファンにプレゼントできたらなと思います」

 実は、NECサイドは塩貝のサイン入りユニホームをプレゼントする企画の告知を狙っていたのだが、事前に本人へ伝えるのを忘れていた。そのおかげで「得点王をファンに届けたい」という彼の本音を引き出すことができた。

 撮影を終えた塩貝に、改めてその真意を訊いてみた。

「(得点王は)取らなきゃダメな賞だと思う。しかもいけると思う。(強化指定選手として横浜F・マリノスの一員としてプレーしたJリーグでも)試合に出れば点を取れる自信はありました。こっちでも最初から点を取れると思うので、得点王を狙いに行きます」

 カルロス・アールバースTDによると、塩貝には欧州中から多くのオファー、関心があり、獲得競争は熾烈を極めたという。『NEC TV』では、塩貝はこれからチームメイトになるMF佐野航大と電話やチャットでコンタクトを取り、「オランダの生活面、NECの環境面は心配する必要はない。ぜひ来たほうがいい」とアドバイスをしてくれたことが後押しになったと明かしていた。
 
 そんな彼にとって、NECに行くことを決心した決定打は何だったのだろうか?

「五大リーグのトップチーム、チャンピオンズリーグに出るようなチームからのオファーもありました。目先のことだけを考えれば、そういうチームに行く選択肢はありました。しかし僕は自分のキャリアプランから逆算して考えました。そして初めての海外ですので、オランダという国や国民性を調べてみると、オランダ人はすごくフレンドリーで、みんなが英語をしゃべることができます。そういう環境面も含めて決めました。

 サッカー面では、オランダはすごく活躍した若手選手をステップアップさせるビジネス的な(仕組みを持つ)ところがある。オランダリーグが求めている選手像と、僕が当てはまると思いました。

 ここでは若いうちからどんどん試合経験を積むことができます。外国人の選手を補強して重宝し、若手をあまり使わないことが海外では一切ない。それこそオランダなんて、20歳から23歳までの選手がメインで出ています。僕にオファーを出してくれた海外クラブと比べても、そこはやっぱり大きかったです」

 塩貝のことをNECがリストアップしたのは、23年11月、U-18日本代表のスペイン遠征、対イングランド戦(2-3)。この試合で2ゴールを決めた塩貝をクラブ・スカウトがレポートし、TD自ら今年5月のモーリスレベロ国際ユース大会(フランス、トゥーロン)を視察して、大会5ゴールを決めたストライカーの獲得に本腰を入れた。NECはその後、幾度かオンラインミーティングをして熱心に誘った。

「イングランド戦は覚えてます。彼らは自分がやってきたなかでもトップレベルに上手い選手たちでした。プレミアリーグで活躍している選手もいましたから。前半はかなり苦しみました。ハーフタイムに『この相手にやっていけなきゃ、海外ではやっていけないぞ』と自分を奮い立たせ、後半、チャンスは多くなかったんですけれど、その少ないチャンスで2本決めることができました。最後の最後に決められて負けてしまったんですが、あのレベルの相手に2点取れたというのは、すごい自信になりました」

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 トゥーロンではイタリア戦でハットトリックを達成した。

「ああいう1試合でオファーが来る。サッカーってそういう世界じゃないですか」

 NECのみならず、他からのオファーが来だしたのは、やはりイタリア戦後だったのか?

「具体的なオファーが来始めたのはそうです。本当にタイミングもあるし、運もある。『イタリア戦で3点取ってなかったら』と考えると…。こういうオファーは絶対来てなかったと思います。そういう意味で、フォワードは1試合で価値を高められるポジションです。ボランチなら安定感。そういういろんな評価軸がありますが、ストライカーは点を取れば正義です。逆にどんなに調子が良くても点を取れなかったら、結果だけ見る人からすると『今日は1点も取らなかったな』となります。

 トゥーロンは自分の価値を高める大会になったと思うので、個人的にはあの大会は良かったという思いはありますが、やっぱりアンダー23の大会です。自分がこれから目ざしていくところはフル代表。それこそ五大リーグのトップレベルの選手たちとやんなきゃいけない。あそこで満足することなく、オランダでしっかりもう1回、自分の価値を高めてもっともっと(上に行きたい)。

 最終目標はレアル・マドリーまで行くことです。そのためにもこういう厳しい環境に身を置くことは大事だと思う。サッカー面では強度が上がると思うし、コミュニケーション面では最初は苦労することもあると思うんですけども、1回そこを乗り越えた時に、本当に自分の最終目標が届く範囲にあるんじゃないかなと思います」
 
「キャリアプランから逆算してNECにした」と語った塩貝は「レアル・マドリーが最終目標」とも言った。キャリアプランの最上位に位置するのがレアル・マドリーなのだろうか?

「ワールドカップに出ることが自分の夢。絶対に叶えなければいけない夢というか。年代別代表ですけれど、僕は日本を背負って戦う重みを感じています。本当に国として戦うことがどれだけ誇らしいことかを知っていますし、逆にどれだけプレッシャーになるかも知っています。

 負けたら代表の選手にはそんなに優しい言葉もかからず厳しいこともあるけれど、勝った時にヒーローになれる、そういうポジションでもあると思う。僕はその喜びも悔しさも知っています。そういうのが自分は好きなんです。まずクラブで結果を残して、そこまで行きたい。絶対に辿り着けると思っています」

 NECのストライカーは小川、塩貝の2人だけ。背番号9を託された19歳は、小川とのポジション競争に挑み得点王を狙う。その高い壁を乗り越えた先に、夢の実現への光が射し込む。

取材・文●中田 徹

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