「わんだふるぷりきゅあ!」の物語が大きく動き出しました。
肉弾戦がない平和的な作風の「わんだふるぷりきゅあ!」(以降「わんぷり」)に今、何が起きているのでしょうか?
売り上げ的にも好調だった前半の「わんぷり」を振り返りつつ、プリキュアたちに「重いテーマ」を突きつけた後半戦の展開を見ていきたいと思います。
kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
これまでのプリキュア連載一覧
「わんだふるぷりきゅあ!」前半戦が終了
2024年2月に始まった「わんぷり」も半分が終了。あっという間に折り返し地点を迎えました。前半戦はパンチやキックといった「肉弾戦」を行わず、敵を抱擁して浄化する作風も大きな話題となりました。
また、物語的には「敵の情報」がほとんど開示されなかった分、ペットと飼い主の関係性の変化やクラスメイトとの日常の描写などをじっくりと描くことができ、それが功を奏しキャラクターの人気が高いのも特徴です。
特にキュアニャミー、キュアリリアンのネコ組は、子どもはもちろん大人にも大人気。コスメ玩具「シャイニーキャッツパクト」は入手が困難になるほどの人気となりました。
物語は急展開
しかし、そんなまったりと平和な作風だった「わんぷり」も8月18日放送の第29話「はじめましてニコ様!」で急展開を迎えました。
ようやく敵の詳細が描かれ、その敵は「かつて人間の手によって絶滅させられたオオカミ」であることが判明したのです。
人間の勝手な都合で迫害され絶滅してしまったオオカミ。犬飼いろはの「全ての動物と友達になりたい」という、いわば無邪気な思いは一方的な立場からの言動であったこと、「人間への恨み」という、いろはたちからは全く見えていなかった「動物の負の感情」との対峙。
印象的だったのは、猫屋敷ユキが「オオカミを絶滅させたのは昔の人間たちでしょ?」と現代の人間に責任は無いのでは? とするのに対し、動物に詳しい男子、兎山悟くんが「でも、オオカミたちから見たら僕たちは同じ人間だ」と、過去の人間の行為を含めて「人間の責任」の有無を問うたことです。
「過去に人間が絶滅させてしまった動物」の責任の所在は今の人間にもあるのか、そして強者側の一方的な「みんな仲良くしようよ」という言葉は、滅ぼされた相手に届くのか。
重めのテーマが提示された「わんぷり」。今後の展開が楽しみですね。
本作のシリーズ構成の成田良美氏は、「Yes!プリキュア5(GoGo!)」「ハピネスチャージプリキュア!」「キボウノチカラ~オトナプリキュア‘23~」などのシリーズ構成も手掛けていて、人間のダークな部分をプリキュアの物語に落とし込むのが得意な印象もあり、この先も一筋縄ではいかない展開が待っている気がしています。
数字上も絶好調な「わんぷり」
さて、そんな前半戦を終えた「わんぷり」ですが、数字上も絶好調です。
2024年8月に発表された東映アニメーションの2025年3月期1Q(2024年4~6月の数字)のプリキュア国内版権売り上げは、コロナ禍以降2020年からの5年間では最高の売り上げとなる1億6100万円となりました(昨対116.7%)。
決算短信ではプリキュアの「ショップ事業」「催事」が好調との記載もあり、キャラクター商品やイベントが好調なようです。
また、玩具を始めとした関連商品の数字であるバンダイナムコHDの「トイホビー売り上げ」も2025年度3月期の1Qは17億円。2023年同期の12億円から141.7%と大幅にアップしました。玩具を始めとした関連商品の売り上げも良好なようです。
主力玩具「変身ワンダフルパクト」「おしゃべりたっぷりこむぎ」が安定した人気なのに加え、コスメ玩具「PrettyHolicシャイニーキャッツパクト」も玩具屋さんの棚から消え、入手が困難になるほどの人気となっています。
2023年は「プリキュア20周年」で大きな盛り上がりだったため、本年はその反動で数字が落ちるかと思いきや、2023年よりも国内版権もトイホビーも増収となっているのは「わんぷり」のコンテンツの力の強さがうかがえます。
好調の要因は?
「わんぷり」が好調な要因は複数あるかと思われますが、一つに「敵と戦わない平和的な作風」が子どもたちに受け入れられたことがあるようです。
SNS上では「これまでのプリキュアは怪物が怖くて見なかった子どもが、わんぷりは楽しく見ている」というコメントがいくつも見受けられ、「肉弾戦をしない」「怖くない」という平和的な作風が新しい子ども視聴者の獲得につながっていることがうかがえます。
また、「わんぷり」の前半戦は、敵組織の情報を排除し、プリキュアたちの関係性をじっくりと描きました。そのおかげで各々のキャラクターの輪郭が明確となり、その魅力が引き出されました。このキャラクターたちの魅力がキャラグッズの購買にもつながり、わんぷり好調の要因の一つとなっているようです。
玩具情報誌においても、「わんぷり」は「キャラクター自体の人気の高さがうかがえる」と報じられています。
一方で2月にスタートしたプリキュアは初動の好調が継続している。玩具だけでなくステーショナリー関連も好調なことから、キャラクター自体の人気の高さがうかがえる。
『月刊トイジャーナル2024年4月号』(東京玩具人形協同協会)P68
大人向けの事業もプラスオン
また最近のプリキュアは「子ども向け」だけではなく「大人に向けたイベント」にも力を入れてきています。
2024年前半だけでも、1月にプリキュア20周年を記念したライブ「全プリキュア20Th Anniversary LIVE!」が横浜アリーナで行われ、1~3月にコラボカフェ「キボウノチカラcafe ~オトナプリキュア’23~」、4~6月にはアルコールも飲めるカフェ「キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~ in namco TOKYO」、3~5月には東京、大阪、名古屋で「わんぷり」と「ふたりはプリキュア」のコラボカフェ「プリキュアズッ友カフェ」を展開、どれも大好評となりました。
また、7~8月にはライブハウスでのライブ「プリキュアシンガーズ Premium LIVE HOUSE Circuit!2024」を東京、名古屋、大阪、広島の全国4都市で開催するなど、大人ファンに向けた施策も数多く実施しました。
さらに、専門ショップ「プリティストア」などでのアクリルスタンドや缶バッジなどのグッズ展開も積極的に行われ、一部は発売日には売り切れになるほどの人気となっています。
子ども向けの玩具やキャラクター商品が好調な上、大人向けの施策がプラスオンされることにより大きな伸びとなっていることがうかがえます。
どうなる「わんぷり」
前半戦は売り上げ的にも好調だった「わんぷり」。
後半戦は敵組織の事情も判明し、いわゆる敵幹部も登場しました。これまでの平和的な雰囲気と大きく変わっていくことも予想されます。
「人間が絶滅させてしまった動物との対話」という重めのテーマを持ってきた「わんぷり」。あくまで「肉弾戦」を描かない作風は継続され「対話」による解決が描かれていくようです。
「かつて自分たちが救われたように、オオカミたちにも寄り添えば友達になれるかも」と励ますのは、人間の言葉を話すことができる犬飼こむぎと猫屋敷ユキ。
言葉が通じることにより、軋轢(あつれき)が生まれることもあるが、より信頼を増すこともできる。「人間とお話ができる動物」としての犬飼こむぎや猫屋敷ユキが、オオカミと人間の架け橋となっていくのでしょうか。
ニコガーデンの主、ニコ様もまだ隠された謎があるようで、この先どんな結末を迎えるのか楽しみですね。
あ、それと。
各種商品の展開などを見る限り、これ以上「レギュラーの追加プリキュア」登場の期待は薄い感じですよね。
兎山悟くんやウサギの大福は、プリキュアにはならないのでしょうか。プリキュアになってほしいような、なってほしくないような複雑な心境です。
でも、どこかで一度くらいは変身しないかなあ。
あと、悟くんの恋の行方も気になります。がんばれ悟くん!
(C)ABC-A・東映アニメーション