9月5日~11日の1週間にAsageiBIZで配信し、多くのアクセスを集めた記事のTOP12を再び紹介する。永田町では「進次郎勝利」の空気が漂い、早くも史上最年少総理の誕生が有力視されている。ところが公約をめぐっては党内外から非難轟々。「許しがたい提案」「世襲議員がお気楽に言うな」とまで酷評されているが、実際のところどうなのか。(初公開は9月10日)

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 自民党総裁選に立候補した翌日の9月7日、歩行者天国となった銀座の交差点で街頭演説に立ち「私が総理になったら聖域なき規制改革を進める」と声を張り上げた、小泉進次郎元環境相。その熱い演説には約5000人の聴衆が集まり、8日、横浜・桜木町駅前の街頭演説では7000人もの人が埋め尽くしたというから、早くも“進次郎嵐”が吹き荒れる気配だ。

 だが、その一方で多くの識者や有権者からは、立候補宣言時に小泉氏が打ち出した姿勢や政策に懸念の声も噴出している。経済アナリストが言う。

「一つは自民党派閥の政治資金パーティー裏金問題を巡り、疑惑の議員に対して非公認などの厳然とした姿勢を見せなかったことにガッカリさせられたとの声があります。しかし、それ以上に世間が懸念しているのは、首相就任1年以内に実施する政策の柱として『解雇規制の見直し』『労働時間規制の緩和』を訴えた点です」

 現行の労働基準法では、雇用者側の都合で自由にクビ切りできないように歯止めが掛かっている。それに対し進次郎氏は「労働者が業績が悪くなった企業や居心地の悪い職場に縛り付けられる現行制度から、成長分野やより自分に適した職場で活躍できる制度に変える」「労働市場の流動性を高め日本経済のダイナミズムを取り戻すために解雇規制の見直しに挑みたい」という観点から「解雇規制の緩和」をブチ上げたのである。

 だが、これに対し立憲民主党の代表選に挑んでいる枝野幸男前代表などは「辞める側は今でも自由で、そもそも規制はない。むしろ次の仕事がないような経済状況が悪化したときに人員整理に利用される仕組みになる」「クビにする自由だけ緩和しようという問題。働く側にまったくプラスはない」とバッサリ。また野田佳彦元首相も「働く人にとっては許し難い提案だ。落選や解雇の心配がない世襲議員がお気楽に物を言うな」と猛烈なツッコミを入れている。

 中小企業労働者サイドからも警戒感が高まる。

「大手で定着すれば、その流れは中小にも波及するのは必至。経営者サイドが気に入らない社員を狙ったリストラに悪用されるのは火を見るより明らかだ」(飲食チェーン従業員)

「日本は多くの企業で終身雇用制度がまだ多い。その保証のため社員は会社のために懸命に働けるし、家族はある程度の生涯設計を描ける。だからボーナスが出て余剰金が出ればそれを消費に回し、大きな買い物や家族旅行にも一定のお金が割けた。しかし、これがいつクビになるか分からないとなれば、余分な資金は老後や子どもの教育やなどの貯金に回さざるを得なくなる。行き過ぎた解雇規制の緩和は経済にプラスとは思えません」(中小企業社員の妻)

 そして、経済アナリストもこう警告する。

「万が一、解雇の規制緩和だけが先走すれば、社会全体が不安定になる可能性が高い。セーフティネットをどう構築するかも同時に問われます」

 この解雇規制緩和案は、総裁候補では河野太郎デジタル相も推進の構え。一方、石破茂元幹事長は慎重な構えを見せているだけに、論戦を期待したいところだが。

田村建光

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