スタイルは「超速ラグビー」。レベルアップには「ハードワーク」。迷いなくキャッチーなフレーズを示すエディー・ジョーンズが9年ぶりにラグビー日本代表のヘッドコーチに就いて、約9か月が経った。
【動画】PNC決勝・日本代表vsフィジー代表ハイライト 昨秋のワールドカップフランス大会時と比べてメンバーを大幅に若返らせ、6、7月のサマーキャンペーンへ臨むと非代表戦を含め1勝4敗。さらに戦い方を浸透させ成功体験を積むべく8月下旬から挑んだのは、パシフィック・ネーションズカップ(PNC)だ。北米大陸と環太平洋諸国によるこの対抗戦において、日本代表は準優勝だった。
まず予選プールでは格下のカナダ代表、アメリカ代表をそれぞれ55―28、41―24で制した。その間は、勝ちながら反省点を抽出した。強引に展開攻撃を重ねるか着実に蹴るかの塩梅を覚え、低く一丸となったスクラムの型を見直した。
センター兼ウイングの長田智希は証言する。
「(始動当初は)正直、『超速ラグビー』がどういうものかもわからず、これが自分たちのやるラグビーなのかという疑問もあったのですが、試合をやるなかで(各自の)役割が明確になってきた」
その流れで迎えた準決勝では、過去のワールドカップで激戦を重ねてきたサモア代表に49-27で快勝した。サモア代表が一部の主力を欠いていたのを差し引いても、いまある前向きな要素を再確認する機会だったのは確かだ。
次世代の司令塔候補として育成過程にある李承信は、この午後、最後尾のフルバックとして自前の攻撃システムを彩った。せり上がる防御の裏側へ球を転がし、長田に、今大会出色の働きのセンターであるディラン・ライリーにフィニッシュさせた。
身長2メートル超のワーナー・ディアンズもラインアウトでのスティール、高低のタックル、フットワークを活かした突進で魅了。今年初代表でフッカーの原田衛も、後述の決勝戦でこそイエローカード、要所でのラインアウトのエラーに泣くも、大会を通じてコンタクトで光った。
もしも日本代表が2027年のワールドカップオーストラリア大会で好結果を残した場合の、新たに国民的人気を獲得する選手のシルエットが想像しやすくなったのではないか。
ジョーンズは「チームカルチャーもうまく育成できている」。バックヤードでは経験者が戦術面を、これからキャリアを積む面々が「君が代を覚える」をはじめとした組織作りに関するパートをドライブした。グループ内のフローが定まりつつある。
道半ばであるのも確かだ。
9月21日の決勝戦では、フィジー代表に17―41と大敗。破壊力と規律を融合させ、昨年のワールドカップフランス大会で8強入りした強豪に、後半に突き放されたのだ。
元気印で右プロップの竹内柊平は、上位国のフィジカリティを再認識した格好だ。自分たちが毎朝6時から猛練習を重ねているのを前提に、こう述べた。
「フィットネス(持久力)よりフィジカルが課題かなと。(ぶつかり合いの)一撃、一撃のダメージの蓄積がジャパンに残っていて、フィジー代表にはあまり残っていないという感じだったので」
ジョーンズは潔かった。
献身に献身を重ねながらも防御に穴を作ってしまったこと、自陣から脱出する前にプレッシャーを受けてしまったこと、深い角度の細かいパスを首尾よく繋げられなかったことの全てを包括するように言った。
「(強豪との試合で)ハードワークをもう少し長い時間し続けるレベルにはまだ達していませんし、その域に達するために今後もハードワークを続ける必要があると思います。本日は実力が不足していた」
今後も引き続き、集団的なスピードで魅する『超速ラグビー』のメソッドやディテール、何より目標のワールドカップ4強入りに必要な「実力」を涵養する。
目先の勝負にもこだわる。10月26日には秋のキャンペーンの初戦があり、その相手が3度も世界一になっているニュージーランド代表であることへジョーンズは「スピードに乗ったプレーを。史上初めてニュージーランド代表に勝つ日本代表になりたい」。そのニュージーランド代表戦へ、現在離れているかつての代表常連組を復帰させるかと記者に聞かれれば、こう突き返す。
「若い選手はお嫌いですか?」
実際に戦力をアップデートしないのかどうかはさておき、自らが抜擢した若き才能を軸に特色あるチームを作りたいのは確かだろう。選手たちの成長について問われれば…。
「結果ベースでのご質問、答えになるのは望んでいるところではない。個々の努力をベースに答えるとしたら、思っていたよりも先に進んでいると思っています」
かねて強烈な意思表示で知られるボスの本領発揮を予感させた。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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【動画】パシフィック・ネーションズカップ準決勝・サモア戦ハイライト
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