☆リリーフとしての矜持
「どんな場面でもやっぱ1軍のマウンドに立たせてもらってることはありがたいと思いますね。ファームで苦しんでた時期があったからこそ、人一倍その想いは大きいんで」。負けられない戦いの最中、ブルペンを支えるひとりとして腕を振り続ける中川颯は、涼し気な表情とは別の顔を見せた。
【動画】中川颯の美しいサブマリン投法!空振り三振を奪取 神奈川県出身の中川颯は、桐光学園から立教大に進学。2020年のドラフト4位指名でオリックス・バファローズに入団し、翌年には1軍デビュー。順調なプロ生活をスタートさせるも、22年オフに肩の故障を発症し育成契約に変更された。しかし2023年シーズンには肩の状態も上向き、ファームながら21試合登板で防御率1.38と結果を残した。だが待っていたのは戦力外通告。そこに目をつけたのは出身地であり、自らもファンであるベイスターズだった。
「感謝」の気持ちとともに開幕ローテーションを掴み、一時期は救援に回りながらも4月30日には先発で初勝利。その後もローテーションで一定のピッチングを続けていたが、6月に右肩を痛め戦線離脱の憂き目にあった。
1年間一軍の目標は絶たれたが「もう焦らず治そうって思ってたんで。焦って繰り返してしまわないように、ゆっくり時間をかけて、万全な状態で復帰できるようにトレーニングも一からやっていきました」と過去の故障の経験を活かし、割り切って己の肉体と向き合った。
当初よりも時間を擁したが、約2か月の離脱を経て8月上旬に一軍復帰。離脱前と違い、求められる場所は中継ぎに決まった。
先発を任されていた際は「調整がほんとに難しくて。2日前ぐらいから自分でスイッチ入れるっていうよりも、勝手に入っちゃうみたいな感じで。すごい気疲れがあって、気持ち的に疲れてしまうんで」と課題になっていたと告白。特に打ち込まれた後は「1週間しんどかったです」と素直な心境を吐露した。
しかしリリーフでは「結構アマチュアの時からそういう場面で投げることが多かったんで。 先発よりも途中からのほうが、スイッチを入れるタイミングを掴みやすいっていうところはあります。そこは自分に合ってるのかなって」とプラスに捉える。具体的には「ブルペンで電話がかかってきたとき」に着火し、心と身体を整えてリリーフカーに乗り込んでいく。
また「ピッチャーって孤独になりやすいポジションなんですけど、みんな初回から試合に入って、みんなの気持ちが勝ちに向かっていますね。それも自分のそれぞれパフォーマンスにちょっと余裕が持てているのかなと思います」とブルペンならではの一体感も実感。さらに「トバ(戸柱恭孝)さんは組んだ時以外でもアドバイスくれます。ちょっと力み過ぎだったよとか、良かった時は褒めてくれるし。そこはすごい勉強になりますし、野手目線、バッター目線で話してくれるんで。自分で気づかないところを指摘してくれます」とベテランキャッチャーの存在にも感謝する。☆痺れる場面での出番
出番は前のピッチャーが残したランナーが溜まり、対峙する相手は右の強打者が待ち構えるシチュエーションも多く、打たれたら試合が決まる痺れる場面での登板に「僅差とか、ワンポイントとかもありますからね。だから期待されてるなっていう風に感じますし、それに応えるのが仕事なんで。不安っていうよりはやってやろうっていう気持ちの方が強いです」と“ピンチ上等”のハートの強さで、他球団の強打者を退治する。
またピッチングスタイルも「先発の時は打たせて取る、1試合27球で終わらせるイメージでしたが、リリーフになってからは、もう全部三振で取る、全球決め球のつもりで投げてるっていう感じですね」と全力で立ち向かう。また「ツーシームが良ければ良いほどやっぱスライダーも効いてきますしね」とストレートとほぼ同じ球速帯のツーシームと、対になる横変化のボールで勝負する。「それに真っ直ぐを交えて30%ずつのイメージで投げています。3択で何が来るかわかんないみたいな感じですね」と下手投げならではの軌道から、打者を翻弄していく。
これからもCS、さらに一つでも上の順位を目指しているベイスターズ。「それはそうなんですけど」と前置きしつつ「一戦一戦、あまり先を見てもいいことないと思うんで。まず目の前の試合と自分の仕事をしっかり全うして、それがチームの勝ちに繋がれば1番いいと思います」と必要以上に気負うことなく、明確な視点で腕を振ると宣言した“ハマのサブマリン”。
西の港で抱えていた想いを、横浜の港で昇華させ、愛するチームとともに浮上してみせる。
取材・文●萩原孝弘
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