Blackmagic Designによると、カラリストのディラン・ホプキン氏が、ノルウェーのドラマシリーズ「フォートレス/虚構の楽園」において、DaVinci Resolve Studioを使用したという。同作は、「シリーズマニア」で脚本賞を受賞した待望のドラマシリーズで、Viaplayで世界初公開された。
ラッセル・トーヴィー(Years and Years)主演の、45分×7本の同ドラマは、ノルウェーが世界との繋がりを断ち、巨大な壁で自国を囲むことを選択した2037年の世界を描いている。隔離された場所で当初は繁栄していたノルウェーの運命は、致命的な感染症が襲いかかり、かつて守られていた要塞が脱出不可能な罠へと変貌を遂げたとき、危険な方向へ向かっていく。
Maipo Filmがプロデュースし、セシリ・A・モリス氏およびミケル・ブレネ・サンデモーセ氏が監督したこのViaplayのシリーズは、資源の枯渇というテーマを物語の主軸とし、移民政策の妥当性を問うもので、現代における議論とも呼応している。
ポストプロダクションスタジオのNordisk Film ShortCut Osloは、ノルウェーとリトアニアで撮影し、DaVinci Resolve Studioを使用して同シリーズのコンフォーミング、グレーディング、フィニッシングを行った。また、Nordisk Film ShortCut Osloは、ビジュアルエフェクト(VFX)を担当したフィンランドのTroll VFXと一緒に、サウンドデザインおよびマスタリングも手がけた。
Nordisk Film ShortCutのカラリスト、ディラン・ホプキン氏は、以前モスリ監督およびサンデモーセ監督と一緒に仕事をしたことがあり、すでに始まっていた撮影にも参加した。同氏は、ラース・ヴェスターゴーア撮影監督(DFF)が設定した挑戦を楽しんだという。
ホプキン氏は、ビジョンを共有したコラボレーションがいかに感動的なグレーディングに繋がったかについて、インタビューで次のようにコメントしている。
ーまずどこから始めましたか?
いくつかのビジュアルの方向性と、コラボレーションの方法について話し合うことから始めたのですが、ビジュアルの参考になるものが欲しいとラースに頼んだところ、ラースは逆に、このシリーズに似合う様々なルックを探すよう、私に求めてきたんです。実際に彼に初めて会う前のことです。このアプローチは面白かったですね。各シーンがビジュアル的にどう私に語りかけるかを探っていきました。
グレーディングの際には自分達自身を追い込まないようにしました。というのも、事前にシリーズのルックを設計していなかったからです。グレーディングを通して、ルックのDNAの変化に対応する必要がありました。
ー同シリーズのルックを決めるのにどのようなアプローチを取りましたか?
明確なビジュアルの参考となるものはなかったのですが、ラースはそれぞれのシーンで照明を非常に具体的に使用して、全体的な強いコントラスト、反射の大胆な強調、顔の部分のソフトなコントラストを実現しました。
早くから私たちの会話に入っていたキーワードは、「メタリック」、つまり、デジタルフィルム・エマルションに銀をあえて多く残す感覚です。従来のアナログカラーフィルムを処理する際に、より彩度を落とした色相と引き締まったコントラスト曲線を得るために、部分的にブリーチバイパスすることに敬意を表しています。
この処理は、ベルゲンでの至福の時と難民キャンプの厳しい現実の視覚的な違いを裏打ちするのに役立ちました。
最初に、大まかなアプローチでマクロレベルで色を確認し、シリーズのための”デジタルフィルムストック”を開発する必要がありました。ストーリー、キャラクター、撮影、プロダクションデザイン、衣装、ヘアメイクに最適なイメージの本質を尊重し、強調するものです。
この段階では、DaVinci Resolve StudioのカスタムカーブとDCTLスクリプトを利用してカラーチャンネル間のクロストークを模倣し、”ショールック”をわずかに不完全にすることを楽しみました。トーンレンジの一部を軸から少しずらすと、よりリアルなイメージになります。そうしないと面白味のないルックになってしまいますね。
ー各エピソードにどれくらい時間をかけましたか?
各エピソードのプライマリーグレーディングにはおよそ36時間かけました。しかし、ルックの向上、編集の変更、VFXショットのグレーディングにも時間がかかります。
最終的なグレーディングで、すべての実写フレームをResolveの共通のカスタムノードツリーに入れることで、私たちがシリーズ用にデザインした”ショールック”のフレームワークを作成しました。このフレームワークは、常にイメージに適用する最後の変更です。
ーこの作品のグレーディングでDaVinci Resolve Studioが果たした役割は?
視聴者たちが重要な場面で登場人物に親近感を感じるよう、フェイス修正ツールをわずかに使用して俳優の目の光を強調しました。
また、いくつかのシーンでは、制服警官の帽子が黒と濃紺だったので、グレーディングでこの濃紺を黒にマッチさせる必要がありました。簡単な作業のように聞こえるかもしれませんが、紺色部分の反射品質は、黒い部分よりもずっと光沢があり、暗い部分の輝度レンジは非常に似ていたんです。
Magic Maskの内蔵オブジェクトマスクとPower Windowを使用して、濃紺部分と黒い部分を分離しました。マットさえできてしまえば、濃紺の部分が黒の部分にマッチするよう変更するのには時間はかかりませんでした。
また、大気エフェクトの詳細にはResolveの深度マップFXを使用しました。シーズン終盤になるにつれ、難民キャンプ内でのシーンが増えていきました。これらのシーンでは、多くの難民や警備員が登場し、焚き火が燃え、煙が立ち込めています。深度マップFXを使用して深度マットを作成し、異なる外観の各ショットをさらに完璧にマッチングさせ、さらにファストノイズFXで作成した霞の可視性を調整しました。これで大気の一貫性を高めることができましたね。
ーシリーズの中でお気に入りのシーンはありますか?
私が気に入っているシーンのひとつは、ドラマチックな昼間のシーケンスです。ユマ(演:ニーナ・インディス)が、密入国者の助けを得て、ノルウェーに不法入国しようとしているシーンです。わずかに緑がかったイメージに圧縮された温かみのあるハイライトを加えたことで、このシーンの緊張感と不安感が高まっています。さらに、エッジの効いた映像、赤い船に対する素晴らしい色分離、濃密な色彩、見事なVFX作業と相まって、この作品に素晴らしいエネルギーを与えています。
グレーディングはストーリーと競合するのではなく、ストーリーを際立たせるものなので、視聴者に注意を引かないものであって欲しいと思います。シリーズの序盤において、2つの場所にはわずかな違いがあります。ノルウェーの活力感の中にも、わずかな不安感を残しています。