西岡良仁が「ジャパンオープンテニス」の2回戦を戦うのは、本日がキャリアで2度目になる。
例年秋に開催されるこの大会は、日本における唯一のATPツアートーナメント。有明のハードコートは、決して西岡にとって、苦手なサーフェスではないだろう。ホームコートで戦う高揚感を、誰より意気に感じるタイプでもある。
ただ過去6度の参戦で、初戦を突破したのはわずかに1度。もちろん、参戦選手は実力者揃いだし、ドロー運もある。西岡本人はその背景に、シーズン全体の流れの中での、調子の振れ幅とツアーの巡り合わせがあると言った。
「過去6回のうち、3度はその前の週の大会で優勝したり、決勝まで行っている。しっかり調整してこの大会に挑むことが、なかなかできなかった」
そのような循環が、今年は大会開催時期が例年より早まったことで、やや変わっただろうか。2週間前のデビスカップで有明のコートを体験していたことも、プラスに働いたかもしれない。
今年7月末にツアー優勝し、一時は100位台に落ちたランキングを59位に上げて挑んだ今大会。西岡が初戦で当たったのは、現在21位、24歳のフェリックス・オジェ-アリアシム(カナダ)。これが今季、3度目の対戦だった。
オジェ-アリアシムとは、2019年の初対戦から西岡が2連勝するも、その後は4連敗。特に今季はクレーで2度対戦し、いずれも相手の高速サービスと強打に苦しめられた。
ただ最後の対戦となった6月の全仏オープン後、西岡はフォアハンドのグリップを変え、以前よりフォアで攻めるようになった。サーフェスが変われば、展開もまた変わる。今まで以上に、胸に期するものもあっただろう。
オジェ-アリアシムと言えば、相手を威圧するかのように一打一打、うなり声を上げて叩き込まれる豪打が武器。勢いに乗れば手が付けられなくなるその相手に、西岡は「主導権をどれだけ握らせないか」を意識して挑んだ。
「どうやって相手に嫌なプレーをするか? あとはグリップを少し改良してから初めての対戦なので、彼は僕のそういうところに戸惑うかもしれない。押し込んでいけばチャンスは来る」
その願い通りの試合を、西岡は展開した。相手が、西岡のフォアと自身のバックの打ち合いを極端に嫌がり、無理やりフォアに回り込む癖を徹底的に突く。特にサービスゲームでは、相手にあえて回り込ませ、逆クロスに来ることを読み切った上でラリーを優位に展開した。
そのようなポイントパターンを相手に植え付けたところで、隠し持った切り札のように、ここぞという局面で逆を突く。長い試合に持ち込めば、相手が根負けするだろうことも、想定内。3時間12分。7-6(5)、3-6、7-6(5)の死闘を戦い抜き、コートに倒れ込むと同時に、足がつる。まさに、肉を切らせて骨を断つ、本人いわく「僕らしい」勝利だった。
自身より5歳年少の選手に、2連勝後に4連敗を喫してきた事実は、西岡の中で気になる現象だったのだろう。「得意だと思っていた相手に、勝てなくなった。伸びてくる若い選手に抜かれることがあり、彼もそういう選手だった」と、試合後に西岡は言う。
だが月日の流れは、必ずしも若さの味方ではない。蓄積されたデータと経験は、それらを誰より有効活用する西岡の財産。敗戦の理由を分析し、自らのプレーをも進化させ戦略を立てた西岡が今季3度目の対戦で勝利。それが、28歳最後の試合で訪れたのも、象徴的である。
29歳になって初めて西岡が当たる相手は、オジェ-アリアシムよりさらに若い、21歳のホルガー・ルネ(デンマーク/14位)。西岡とは2023年1月に初対戦し、その時は西岡が逆転勝利。1年後の今年1月の全豪オープンでは、ストレートで敗れた。彼もまた西岡にとって、追い抜かれたと感じる若手かもしれない。
ただルネは、全米オープンを含む直近の2大会で、いずれも初戦敗退。ちなみにその敗戦の1つは、内山靖崇に喫したものだ。ルネはポテンシャルは高いものの、まだ粗削りでアップダウンも多い。西岡にとっては、戦略の立て甲斐もあるだろう。
29歳になって最初の試合で、知将・西岡が3度目の対戦となる若手相手に、どのような策をめぐらすのか? 楽しみな一戦なのは、間違いない。
※西岡対ルネの2回戦は28日18時以降に有明コロシアムでスタート
取材・文●内田暁
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