有料ストリーミングメディアNetflixの新作ドラマ『極悪女王』が19日に世界配信され、国内ランキング1位を奪取するなど大ヒットを記録している(以下、ネタバレ有り)。
同作品は、日本女子プロレス界最強最悪のヒールレスラー、ダンプ松本の視点で、当時の全日本女子プロレス(劇中では全日女子プロレス)で命を削りながら奮闘した選手やスタッフ、選手の家族などにも焦点を当てながら、ダンプがどうやって最強のヒールレスラーになっていったのか、そしてどのように去り際を決めたのかをしっかりと描いている。
【動画】マーベラス彩羽匠が公開した剛力彩芽のバックスピンキック 主役はダンプなのだが、ライオネス飛鳥&長与千種のクラッシュギャルズ、大森ゆかり、ダンプと極悪同盟を結成したものの、後に追放されたクレーンユウ(本庄ゆかり)といった昭和55年組が物語の中心となり、彼女たちがファン時代に憧れたビューティー・ペア(ジャッキー佐藤&マキ上田)、先輩にあたるジャガー横田、デビル雅美の葛藤にも迫っているところが興味深い。
筆者が女子プロレスを見始めたのは、ちょうどデビルからダンプとユウが独立した辺りからだったので、当時はわからなかった謎解きをいくつかすることも出来た。ただ映画『ボヘミアン・ラプソディ』や『アイアンクロー』のように実話に基づいて作られたフィクション作品であることから、実際とは違う事柄がいくつも散見されたのも事実で、一部のプロレス関係者が「あれがなければ文句なかったのに」と嘆いていた実際には使われることのない隠語が多用されていた点は少し残念だった。
ただ世界配信ということを考えた脚本において、担当した鈴木おさむがそのように書き換えたと見るのが自然かもしれない。ジャガーは劇中で、クラッシュと対戦した際、千種にサソリ固めで敗れたことになっているが、当時のジャガーは道場でのスパーリングも含めて最強だったと言われており、ジャガーも「千種にも誰にも負けた記憶はない」と話し、飛鳥も「ジャガーさんが負けたという事実はない」と話していたという。またジャガーは、赤いベルトを一発獲りしたジャッキー戦について「八百長じゃなかったから私が勝っちゃったんだよ」とも話しており、いかに当時のジャガーが強かったかよくわかるエピソードだ。
しかし作品を見終えたジャガーは「水着とか本当によく作り込んでいたし、ああいうこともあったなと思い出したこともあった」と作品自体は「素晴らしい作品」と絶賛している。
今回の撮影に全面協力したのが、千種だった。千種は代表を務める団体マーベラスの道場を貸し出し、所属選手も必死になって、出演する女優陣にプロレスを叩き込んだ。一時はマーベラスの興行よりも撮影を優先させた時期もある。それほど千種は自分たちがやってきた時代に誇りを持っているとともに、今回の作品を再び女子プロレスを世間に広めるチャンスと捉えていた。
そんな千種の気持ちや女優陣の覚悟は全女のOGたちにもしっかりと伝わっており、作品公開後に事実と異なることへの指摘はあっても、非難する声は全く聞かない。また当時のピリピリ感を巧みに操作していた松永兄弟の存在も欠かせない。残念ながら次男の健司副会長は描かれなかったが、斎藤工が演じた俊国社長(マネージャー)はドラマの核になっていた。松永兄弟を描いたことで、この作品から昭和の“全女イズ夢”を感じた人も多いはず。まさか令和になって松永兄弟を検証する日が来るとは思わなかった。
『極悪女王』を見て、この時代に興味を持たれた方は、阿部四郎も含めた登場人物(ラブリー米山は実在しないが)を調べた上で、YouTubeなどで残された動画を見ながら答え合わせをしてもらいたい。答え合わせをしてからもう一度見るとさらに楽しめるはずだ。
今のプロレスにあのピリピリ感を出せるか? と言われたら出せないだろうし、今のファンには受け入れられない気もする。ただ、ああいう凄惨な試合の数々が、長きにわたりフジテレビ系のゴールデンタイムや、日曜の夕方に見られたのは事実。全女のビルを駐車場になっていた跡地に作り直したと聞いた時にはビックリしたが、世界で勝負するNetflixが織りなすスケール感溢れる作品となった。あの時代の熱気に触れられるだけでも価値あるものが出来たと思う。
しかし、松永兄弟が選手を焚き付けながら仕掛け続けることに不満を抱いた選手が最後まで抵抗していく姿には、こちらも感情移入せずにはいられなかった。そういう意味で、クラッシュギャルズと極悪同盟の抗争(特に千種とダンプ)は、松永兄弟と彼女たちが戦いながら作り上げた最高傑作と言っていいだろう。(※文中敬称略)
取材・文⚫︎どら増田
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