世界反ドーピング機関(以下WADA)は9月28日、禁止薬物が2度検出されたにもかかわらず即時に無実が証明された男子テニス現世界ランク1位のヤニック・シナー(イタリア/23歳)をスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴した。海外テニス専門サイト『UBITENNIS』が報じている。
既報の通りシナーは、3月のマスターズ1000大会「BNPパリバ・オープン」(アメリカ・インディアンウェルズ/ハードコート)におけるドーピング検査で、提出した検体から低濃度ながら禁止物質の「クロステボル」(筋肉増強効果のある合成アナボリックスステロイド)が2度にわたり検出。シナー側は禁止物質が体内に入った理由について、サポートメンバーの1人が自身の傷を治療するためにクロステボル入りのスプレーを肌に塗り、その手でシナーにマッサージ等を施したためだと説明していた。
シナーには一時暫定的な出場停止処分が科されたが、異議申立てが認められすぐさま処分は解除。その後の調査でも、違反が故意ではなく過失もなかったと判定され、結果的にシナーは資格停止処分を受けないまま決着していた。
このほどWADAはシナーを無実と裁定したテニスの不正行為監視機関「ITIA」に対し、「過失がないという判断は適用規則と照合した上で正しいものではない」として不服申し立てを決行。「1年から2年の資格停止を求める」としつつ、「この問題は現在CASで審議中であるため、現時点ではこれ以上のコメントを出すことはできない」との声明を発表している。
今回のWADAの提訴に、一貫して身の潔白を主張してきたシナーは当然ながら納得がいっていない様子だ。現地28日に行なわれたツアー大会「中国オープン」(9月26日~10月2日/中国・北京/ハードコート/ATP500)の2回戦で、ロマン・サフィウリン(ロシア/69位)に3-6、6-2、6-3で勝利してベスト8に進出したシナーは、試合後の会見で一連の報道に対して次のように不満をにじませた。
「正直に言うと、WADAの提訴には非常にがっかりしているし、驚いてもいる。なぜならこれまでに審問は3回あり、全て自分に非常に有利な結果だったからだ。こんな展開になることは予想していなかった。彼らが提訴するつもりであること、そして今日それが正式に発表されることは、数日前に知っていた。もしかすると彼らは僕がちゃんと手続きを踏んだ上での裁定だったのかを確認したいだけなのかもしれないけどね」
仮にWADAの異議申し立てが認められれば、最低でも1年はシナーのプレーが見られなくなる運びとなりそうだが、果たしてどうなるのか…今後の動向に注目していきたい。
文●中村光佑
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