レアル・マドリーのキリアン・エムバペが戦列を離れることになった。ラ・リーガ第7節のアラベス戦で左太ももを痛め、検査の結果、大腿二頭筋の負傷で、スペイン紙『エル・パイス』によると全治3週間程度となる模様だ。今シーズン、最初の大一番だったアトレティコ・マドリーとのダービー戦も欠場した。
ここまで公式戦9試合に出場し7得点。とりわけここ5試合で6得点と量産態勢に入っていた。ただプレー全体の評価でいうと、「エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオール、ジュード・ベリンガム、ロドリゴの間の連携はまだスムーズさに欠ける」というスペイン紙『AS』のマドリー番記者マヌ・デ・フアン氏の指摘が示すように、全開には至っていないというのが現地での一般的な見方だ。
その一方で、ポジティブな印象を与えているのが、取り組む姿勢だ。エムバペと言えば、パリSGやフランス代表では何かと王様扱いが強調されていたが、2得点を決めたラ・リーガ第4節のベティス戦後には、「チームの力になりたいというごく自然な思いで僕はここに来た。ピッチの外でもチームメイトと楽しい時間を共有しながらね。みんながみんな偉大な選手ばかりだけど、まず人間性が素晴らしい。これからもっと良くなっていくと思う。みんなで結束すれば、素晴らしいシーズンになるだろう」と殊勝に語っている。
サッカーの実況アナウンサーとして長年第一線に立ち続けてきたフアン・カルロス・リベロ氏も、スペイン紙『エル・ムンド・デポルティボ』のコラムで、このエムバペの発言を受けて「スーパースターの裏に隠された人間性がにじみ出ていた。彼の心配事は、ゴールを決めることではなく、チームメイトに適応し、チームを助けることにあると繰り返し口にしていた。ポーズと捉えることができるかもしれないが、私にはそうは思えない」と評価している。
すなわちエムバペは意欲的で、自分から周囲に溶け込もうとしている。ただその謙虚な姿勢はともすれば、試合中は遠慮という形になって表われてしまう。『エル・パイス』紙のマドリー番記者ロレンソ・カロンヘ氏がエスパニョール戦後に、「エムバペは左サイドをロドリゴに任せ、CFの位置に留まり続けた。既存の選手がドレッシングルームで手に入れたステータスを尊重しているのだろう。左サイドにはほとんど顔を出さず、中央のゾーンでプレーし続けた」と触れていた。
ちなみにこの試合、ヴィニシウスはベンチスタートだったが、その本来の左サイドの支配者との関係性についても、『ラジオ・マルカ』の人気番組『ラ・ピサーラ・デ・キンターナ』で共同MCを務めるアドリアン・ブランコ氏は、「エムバペとヴィニシウスのポジションの流動性のなさに驚いている。一方は9番としてプレーすることに窮屈さを感じ、もう一方は昨シーズン、2トップの一角として素晴らしい働きを見せただけに、なおさらだ。相性や時間の問題だろうが、2人の連携は最初からもっとスムーズに進むと思っていた」と分析している。
そんな中では、エムバペがラインブレイクを見せても周りとなかなか噛み合わず、バックアッパーのエンドリッキを例に出して、「エンドリッキは繋ぎ役をこなし、ラインブレイクを乱用しない。マドリーのプレーに欠けているものを提供する。ポジションを下げ、タメを作り、周囲の押し上げをサポートする。スタメンで試すべきだ」といったアナリストのファビアン・ピニェロ氏のような意見も出ている。
エムバペの現状と可能性については、今回の戦線離脱がチームにもたらす影響について言及するスペインスポーツ界の“ご意見番”サンティアゴ・セグロラ氏の見解が端的に示している。
「エムバペのような選手が不在となれば、他のチームなら冷や汗をかくだろう。しかし、現状の彼はマドリディズモが期待する眩い輝きを放つ選手ではない。その閃光は近い将来、彼がどのようなインパクトをもたらすかを暗示するには十分すぎるほどのものだが、現時点では彼の欠場をカバーすることにおいて、マドリー以上に準備が整っているチームを見つけるのは難しい」
文●下村正幸
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