逆境跳ねのけたルガルの「ポテンシャル」 復活勝利に導いた西村騎手の「積極性」は見事! 一方、断トツ1番人気を裏切ったサトノレーヴの評価は?【スプリンターズS】

 9月29日、秋のGⅠシリーズの幕開けを飾るスプリンターズステークス(中山・芝1200m)が行なわれ、単勝9番人気のルガル(牡4歳/栗東・杉山晴紀厩舎)が先行・押し切りの強い競馬で優勝。鞍上の西村淳也ともどもGⅠ初制覇を遂げた。

 2着には5番人気のトウシンマカオ(牡5歳/美浦・高柳瑞樹厩舎)がクビ差で入り、4番人気のナムラクレア(牝5歳/栗東・長谷川浩大厩舎)はさらにクビ差の3着。一方、オッズ3.0倍の抜けた1番人気に推されたサトノレーヴ(牡5歳/美浦・堀宣行厩舎)は7着に終わった。

 週末は雨の予報が出ていた天候だが、実際には土曜日にパラパラと小雨が降ったのみで、日曜は曇りのまま降雨はなし。前週までの超高速馬場ではなかったものの、馬場状態は中山の最終週としては良好で、午前中から前残りの競馬が続出。特に外を回っての極端な追い込みは利きづらい馬場状態になった。
  ゲートを素早く飛び出したピューロマジック(牝3歳/栗東・安田翔伍厩舎)がぐんぐん飛ばして単騎逃げの形になったこのレース。ウイングレイテスト(牡7歳/美浦・畠山吉宏厩舎)が離れた2番手に付け、その後ろをルガルが追走。2番人気のママコチャ(牝5歳/栗東・池江泰寿厩舎)、3番人気のマッドクール(牡5歳/栗東・池添学厩舎)がその後ろの好位置をキープ。このレースのために短期免許を取得したダミアン・レーン騎手を招いたサトノレーヴは、スタートで後手を踏んで中団後ろ目の8番手。4番人気のナムラクレアはさらにその後ろの12番手に付けた。

 前半の3ハロン、ピューロマジックが刻んだラップタイムは32秒1という暴走気味の超ハイペース。特に2ハロン目に計時した9秒9というタイムは明らかなオーバーペースだった。

 それでも、ピューロマジックが後続に数馬身の差をつけて向いた直線。粘る逃げ馬を追って積極的に仕掛けたのは3番手を進んだルガルで、直線の坂を駆け上がったところで先頭に躍り出て、そこへ後続も殺到する。内ラチ沿いをぴたりと回ったトウシンマカオと、馬群の外へと持ち出したナムラクレアが末脚を爆発させて急襲したが、ルガルは終いまでしぶとさを発揮して2頭をわずかに封じ、先頭を守り切ってゴールを駆け抜けた。 ルガルは今年1月のシルクロードステークス(GⅢ、京都・芝1200m)で2着に3馬身差を付ける圧勝で一気に注目を集め、続く高松宮記念(GⅠ、中京・芝1200m)では1番人気に推された。しかし、そこでマッドクールから1秒2も離された10着に大敗。大きく評価を落としたが、レース後に左橈側手根骨と左第3手根骨の骨折が判明して休養に入り、今回のスプリンターズステークスは約半年ぶりの実戦だった。

 ルガルの杉山調教師は、「ぎりぎり(スプリンターズステークスに)間に合った」と述べたが、放牧先の牧場やトレセンでもじっくりと乗り込んできっちりと仕上げた。西村騎手には「今の中山ではある程度前に付けないと勝ち負けできないから、まずゲートをしっかり出してくれ」とオーダーしていたという。

 同調教師の注文に応え、3番手キープから早めのタイミングで勝負に出た西村騎手の積極性が見事ならば、ハイペースの流れを乗り切ってゴールまで粘ったルガルの走りも素晴らしいのひと言。高いポテンシャルを持つトップホースを骨折休養明けのため、ひと叩きしてからと検討段階でスルーした筆者の軽率さを恥じ入るばかりである。
  インコースの前目を進んだ2着のトウシンマカオ、4着のママコチャは力を出し切った印象だが、良いポジションを取れずに直線で外へ進路をとる距離損があった3着ナムラクレアは上がり最速(3ハロン33秒2で、ルガルより1秒0速い)を記録しているだけに、もったいない敗戦となった。ちなみにナムラクレアのスプリントGⅠ成績はこれで〔0・2・2・1〕となった。

 1番人気に推されながら7着に敗れたサトノレーヴはゲートで後手を踏んだのが痛かった。初のGⅠ出走だけにその後のペースは激流で、スタートで狂った歯車が終いの伸びを欠く要因となったような印象が強い。5歳にしてまだ10戦というキャリアを見れば、まだこれからの伸びしろがありそうで、まだ見限るのは早計だ。

 プレビュー記事で主軸に推したマッドクールは、6番手という好位置を取りながら、直線に入るとすぐ手応えがいっぱいになってしまった。手綱をとった坂井瑠星騎手は、「流れが速く、追走に手一杯になってしまった」とコメントしているが、レース展開ひとつで好走も大敗もあるタイプだけに、こちらも今後マークしておくことが必要だろう。

文●三好達彦

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