セスク監督率いる昇格組コモ、トップ10入りでセリエA序盤戦のサプライズに「主導権を握って戦うアクティブで攻撃的なスタイルが、着実に形になりつつある」【現地発コラム】

 セリエAは開幕から6試合を消化した。例年、シーズン序盤は開幕後の8月末まで続く移籍マーケットのドタバタによるチーム編成の遅れや、新監督を招いたクラブの戦術浸透度の低さなどから、番狂わせやサプライズが起こりがち。今シーズンは、ウディネーゼやトリノといった地方クラブが単独首位に立つ珍しい状況があった。

【動画】いずれも3ー2で勝利したアタランタ戦とヴェローナ戦のハイライト!

 とはいえ、シーズンが進むにつれて順位表が徐々に固まり、どのチームもほぼ収まるべきところに収まるのが常だ。実際に今シーズンも、6節を消化した現時点で首位ナポリ(勝点13)、2位ユベントス(同12)、得失点差で3位にミラン(同11)、4位にインテル(同11)と、まずまず順当な並びになってきている。

 その中でサプライズと言えるのは、ミラン、インテルと並んで勝点11のトリノ、ユベントスとともにここまで無敗を保ち勝点10で6位のエンポリ、開幕4試合で3勝を挙げて一時は単独首位に立ったウディネーゼ、そしてとりわけ注目したいのが、昇格組ながら直近2連勝でトップ10に入ってきたコモだ。

 チームを率いるのはセスク・ファブレガス。アーセナル、バルセロナ、チェルシーとトップクラブを渡り歩いてその中盤を支え、スペイン代表としてワールドカップ1回、EURO2回の優勝に貢献した「あの」セスクだ。
  2019年にチェルシーからモナコに移籍した後、35歳になった22年にキャリア最後の舞台として選んだのが、当時セリエBのコモだった。選手としては1シーズンで引退したものの、その後すぐに指導者に転身し、1年目の昨シーズン途中に下部組織のプリマベーラ(Uー19)指揮官からトップチームの暫定監督に内部昇格。

 ライセンスの関係上、暫定期間の1か月が終わった後は、名目上の監督を迎えてアシスタントコーチとして支える体裁を取りながら、実質的な指揮官として振る舞った。就任時点で6位だったコモを優勝したパルマに次ぐ2位にまで引き上げて、21年ぶりのセリエA昇格をもたらした。

 コモのオーナーは、インドネシア三大財閥のひとつジャルムグループを率いる億万長者ハルトノ家。コモをビッグクラブに成長させたい強い野心を持っており、22年のセスクの獲得は選手として以上に、引退後の監督への転身をサポートし、チーム強化はもちろんコモというクラブの成長・発展につながる中期的なプロジェクトの中核という含みを持っていた。

 実際にセスクは、22年の加入時に単なる選手としてだけでなく、アーセナル時代の「戦友」ティエリ・アンリを誘う形で少数株主としてクラブに出資もしている。そして監督就任1年目から期待に応えて、というよりも期待を上回る仕事を見せてチームをセリエA昇格に導き、37歳のリーグ最年少監督として今シーズンの開幕を迎えた。
  今夏の移籍マーケットでの動きは、昇格1年目の弱小チームとは思えないものだった。元フランス代表CBラファエル・ヴァランヌ(マンチェスター・ユナイテッド)を筆頭に、MFセルジ・ロベルト(バルセロナ)、左SBアルベルト・モレーノ、GKペペ・レイナ(ともにビジャレアル)という3人の元スペイン代表のほか、元イタリア代表FWアンドレア・ベロッティら、大物を次々と獲得した。

 さらにレアル・マドリーのBチームで10番を背負い、アルゼンチン代表招集歴もある左利きファンタジスタのニコ・パス、アルゼンチンUー20代表のゲームメーカーで昨シーズンはラス・パルマスでプレーしたマキシモ・ペローネ(保有元はマンチェスター・シティ)と、メガクラブが保有する若きタレントも戦列に加えるなど、「セスクルート」を活用して、下位というよりは中位レベルの戦力を調えた(ただしヴァランヌは開幕戦で膝を負傷して離脱、そのまま9月25日に引退を表明した)。

「監督セスク」のサッカーは、ミケル・アルテタやシャビ・アロンソら世代の近いスペイン人監督と共通する点が多く、ポゼッションとハイプレスに基盤を置いたポジショナルプレー志向の攻撃的なスタイルが特徴だ。3バックのシステムによるマンツーマンハイプレスを基本とするトランジション志向の強いサッカーが幅を利かせるセリエA中堅以下のチームの間では異彩を放っている。

 移籍マーケットが継続中でチームが固まらなかった最初の3試合こそ、ユベントスとウディネーゼに敗れ、カリアリとも引き分け止まりとエンジンがかからなかったが、陣容が揃いチームも固まった代表ウィーク明けの直近3試合は、ボローニャと2ー2で引き分けた後、アタランタ、ヴェローナをいずれも3ー2で下して2連勝。自陣からパスをつないで攻撃をビルドアップし、最終ラインを高く押し上げて敵陣で主導権を握って戦うアクティブで攻撃的なスタイルが、着実に形になりつつある。
  それを象徴するのが、ボローニャ、アタランタという今シーズンのチャンピオンズリーグを戦っている格上と互角に渡り合った2試合だ。ボール保持時にはピッチ中央のゾーンに7~8人が密集して少ないタッチで細かくパスをつなぎながらチーム全体を押し上げ、そこから相手の隙を衝いて一気にワンツーやスルーパスで一気にフィニッシュを狙う効果的な攻撃を見せ、決定機や枠内シュート数でも相手にまったく引けを取らなかった。

 中盤から正確なパスで局面を前に進めるペローネとS・ロベルト、トリッキーなテクニックを駆使したボール捌きで2ライン(MFとDF)間から決定的なチャンスを演出するパスと、新戦力が期待通りの活躍を見せ、その一方では、地元コモ出身でミラン育ち、チームのシンボル的な存在となっているCFパトリック・クトローネが開幕6試合で4得点・1アシストの爆発でチームを引っ張るなど、レギュラーの顔ぶれが固まるにつれ新旧の戦力が効果的に噛み合って、魅力的な攻撃サッカーを展開している。

 次の試合は、アントニオ・コンテ新監督の下で前節単独首位に立ったナポリが相手。好調な強敵を相手にコモがどんな戦いを見せるか、見逃せない一戦であることは間違いない。

文●片野道郎

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