昨今、サッカー界では過密日程問題が叫ばれる中、もちろんバルセロナも例外ではない。この3週間で7試合の強行軍で、しかもマルク=アンドレ・テア・シュテーゲン、ロナルド・アラウホ、ガビ、フレンキー・デヨング、ダニ・オルモ、フェルミン・ロペス、マルク・ベルナル、アンドレス・クリステンセンと主力級の選手8人が故障で欠場中だ。
開幕以来、スタメンを固定することで組織力の向上を図ってきたハンジ・フリック監督も、さすがにローテーションを採用せざるを得なかった。最初の試みは成功に終わった。6節のビジャレアル戦で、CBパウ・クバルシと左SBアレハンドロ・バルデの代わりにセルジ・ドミンゲス(19歳)とジェラール・マルティン(22歳)という若手の中でも無名の2人をカンテラからそれぞれ先発に抜擢。さらに中盤は、ペドリに加えて、3日前のチャンピオンズリーグ(CL)のモナコ戦で退場処分を受けたエリク・ガルシア、今シーズン初スタメンのパブロ・トーレという顔ぶれだった。そんな中でも、バルサは敵地で難敵相手に5-1で大勝。試合後は、誰が出場しても、どれだけローテーションを採用しても、組織力を土台にしたバルサには関係なしといったフリックの手腕への称賛の声が溢れた。しかしスポーツ、サッカーは結果が全てだ。
ミッドウィーク開催のヘタフェ戦(1-0で勝利)を経て、続くアウェーのオサスナ戦ではフリックのローテーションを採用する度合いがさらに高まった。前述のジェラール・マルティン、セルジ・ドミンゲス、パブロ・トーレに加えて、ラフィーニャとラミネ・ヤマルの代わりにパウ・ビクトルとフェラン・トーレスを両ウイングに起用。負傷のテア・シュテーゲンの代役としてイニャキ・ペニャがヘタフェ戦に続いてスタートから出場した点も踏まえると、後述する現地識者の言葉を借りれば、セカンドチーム同然のスタメンを組んだ。しかしこのギャンブルは失敗に終わり、バルサは2-4で敗れた。普通だったら、監督が真っ先に、そして厳しく責任を問われるケースだ。しかしその一方でフリックは開幕ダッシュ成功に導いた監督でもある。
ジャーナリスト、ヘマ・エレーロ氏のスペイン紙『AS』のコラムでフリック監督を擁護している。
「そもそもオサスナ戦までに起こったことが異例中の異例であり、バルサがギリギリの戦力で戦っていること、17歳のヤマルが全試合をプレーきるわけではないこと、カンテラ上がりの選手たちがいかに優秀であっても、4月以来、とんと姿を見かけないデヨングのような選手が必要であることを忘れてはならない。遅かれ早かれ現実を突きつけられることは避けられなかった。フリックは持ち駒でベストを尽くしている」
スペイン紙『スポルト』の編集長、ジョアン・ベリス氏も、「これまで一度もミスを犯さなかったフリック監督の采配に冴えがなかった。しかし、彼がこれまでしてきた良い仕事を霞ませるものでも、信用を汚すものでもない」とミスを指摘しながらも、しっかりフォローしている。
そんな冷静な論調が支配的ななか、目を引いたのが、『スポルト』の元編集長、ジョゼップ・マリア・カサノバス氏の批判のトーンだ。
「火遊びをすれば、火傷のリスクは大きい。今のバルサは最高級の選手をベンチに置いておくほどの余力はない。自殺行為に等しく、連勝に浮かれ、セカンドチームでも勝てると信じたドイツ人監督によるリスクの高すぎる賭けだった。失敗は明らかだった。ラフィーニャとヤマルを同時に温存するのは決して許されない贅沢の極みだ」
「この敗戦を教訓にして、フリック監督にはローテーションをもっと上手にプログラムする術を身につけてもらわなければならない。チームの混乱を救ってもらおうと後半から起用(ヤマルとラフィーニャを58分に同時投入)するようであれば、温存する意味はあまりない」
バルサは3日後にCLのリーグフェーズ第2節でヤング・ボーイズをホームに迎える。若手の酷使問題も指摘されている。フリック監督にも理由はあっただろう。しかしそうした様々な点を踏まえて最終的に決断を下すのが監督の仕事だ。それが今回のように裏目に出れば、快進撃の最大の立役者であっても無傷というわけにはいかなかった。
文●下村正幸
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