ジャパンオープン優勝は20歳のフィス!3時間4分の激闘の末アンベールとのフランス勢対決を制す<SMASH>

 男子テニスのATPツアーとしては、2020年1月のオークランド大会以来。ATP500のグレードに限れば、史上2度目の“フランス人決勝戦”が実現した「木下グループジャパンオープン2024」。世界19位のウーゴ・アンベールとの頂上決戦を制したのは、24位のアルトゥール・フィス。20歳3カ月での戴冠は、大会史上2番目の年少者記録でもあった。

 四大大会の一つである「全仏オープン」を有し、テニス発祥の地とも呼ばれるフランスの、テニス大国としての歴史は長く誇りは高い。ゆえにファンや関係者からの選手への要望は高く、向けられる視線や声は時に辛辣だ。

「フランスの選手は、良い試合をしたら満足してしまい、勝利へのハングリーさが足りない」

 フランスメディアは、地元選手について度々そのような評価を下す。2023年の全仏オープンでは、男子シングルスで3回戦以上に進んだ選手はゼロで、危機感は一層の高まりを見せていた。

 かつて“四銃士”と呼ばれた4人のスター選手たちも、ジョーウィルフリード・ツォンガとジル・シモンは引退し、リシャール・ガスケは来年1月での引退を表明。残るガエル・モンフィスも、Xデーはそう遠くないだろう。そのような時勢の中で、母国の期待を集めるのが今大会の決勝を戦う二人。取り分け、若いフィスだろう。

「僕にとって、6歳年長のウーゴは兄のような存在。オンコートでもオフコートでも、いつも助けてもらっている」と、フィスはアンベールを評する。両者は過去に4度対戦し、アンベールの4勝。しかもツアー6勝のアンベールは、決勝で負けたことはない。速めのハードコートは、サウスポーのビッグサーバーが得手とするサーフェスでもある。

 加えて今大会のフィスは、準決勝のホルガー・ルネ戦も含め、連日、深夜に及ぶフルセットの死闘を制してきた。それら多くの数字や状況は、26歳の優位を示していただろう。
  果たして第1セットから、フィスはポイント間にもヒザに手をつけ肩で息するなど、披露の色を隠しきれない。第1セットを7-5で取ったアンベールが、第2セットも優位に進めていく。

 それでも「コートに入り、プレーして様子を見ようと思っていたら、感触が良かった」というフィスは、コートをエネルギッシュに駆け、攻守のバランスを取りつつ食らいつく。第2セットのタイブレークではマッチポイントまで追い詰められるも、目の覚めるようなバックのパッシングショットで切り抜けた。

 逆転で第2セットをもぎ取り、二人肩を並べるように駆け込んだファイナルセット。試合開始からちょうど3時間が経過した時、フィスが値千金のブレークをつかみ取った。最後は、センターに210キロ超えの2連続エース。観客の大歓声と同時にコートに大の字に倒れ込んだ時、電光掲示板には5-7、7-6(6)、6-3のスコアと共に、3時間4分の試合時間が表示された。

 通算3度目のツアー優勝を飾ったフィスは、表彰式でトロフィーを目にした時、「大きいな!」と驚いたという。セレモニー終盤では段取りがわからず、「いつトロフィーを持ち上げていいのか戸惑った」と、初々しく明かしもした。

 その銀のトロフィーを手に取った時、彼は刻まれた歴代優勝者の一覧に、ジョーウィルフリード・ツォンガの名を見つけた。

「彼が優勝していたことを知らなかった。この大会で優勝した2人目のフランス人選手になれて、すごく幸せな気分だった」

 矜持を込めて、フィスが言う。偉大なる母国の先輩からのバトンを、次代を担うスター候補が、有明コロシアムで受け取った。

取材・文●内田暁

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