【東京・千代田区発】マインクラフト(マイクラ)の魅力と教材としての力は「自由さ」にあると語るタツナミ氏。一方で、現代の教育現場では親と子の間の温度差を懸念しているという。自分はあくまでマイクラのユーザーであって「先生」と呼ばれるのには抵抗があったものの、その称号を受け入れたのには理由がある。また、氏の目標は少し聞いただけでは意外に感じたが、その視線の先にはこれまでにないかたちで多くの子どもたちに道標を与える将来像があった。
(本紙主幹・奥田芳恵)
●親の負けだとはっきり伝える理由
授業の現場で、保護者の方にはどのようなお話をされるのでしょう?
学ぶことを面白く思わせられるかどうかが、子どものその後の人生を左右するということです。私自身、英語が苦手で、親に勉強しなさいと言われ続けたけどやらなかった。というのは、「なんでやらなきゃいけないの?」と思っていたからです。それに対して親は「将来必要でしょう?」と言うのだけど、子どもは「何に必要なの?」となる。良い大学に行けるように、って言ったって、それはなんで?という疑問の無限ループです。いろんな勉強がのちに必要だとか、面白いものだったと気づく感覚は大人にしかわからない。だから自分がエンターテイナーになって、いろんな勉強をやりたくなるように仕向けるのが大人の義務です、それができなかったらあなたたちの負けですよ、と。
言われたからやる、ではダメなんですね。
その感覚で勉強したって、大人になったら忘れちゃうんですよ。でも、面白くて学んだものは残ります。例えば、中学生の時に知ったカール・シュバルツシルトの重力方程式、これはアインシュタインの相対性理論につながるものなんですが、私はいまだに全部覚えてます。そういう意味ではマイクラは子どもにとっては楽しみながら勉強していく、心が開いていくツールなんです。
保護者の皆様の反応はどうなんでしょう。
どうでしょう。ただ、印象深い出来事があります。ある高校生が、わからないことがあると私に問い合わせてきたことがあって。私は直接、その生徒に会うために学校まで行きました。先生も同席されていたのですが、最初はゲームのよくわからない話といった顔でただ2人の会話を聞いておられるだけでした。でも、私は先生に伝えたんです。彼(高校生)が私に直接連絡してきたというのはとてつもなく勇気のいることなんです、そして今この会話は、非常に高度なものですよ、と。すると先生はそこから必死にメモを取り始めます。そして先生に伝えました。ぜひ彼のこの能力を伸ばす環境をつくってあげてください、疑問に思ったことがあれば動いていい、聞きに行っていい、それは素晴らしいことなんだと。先生は納得されました。
ご多忙の中、直接会いに学校まで?
そうです。年に何人かそういう子がいて。彼らは与えられた課題をこなすことがゴールではないとわかって、それ以上の“欲求”をもつ人物なんです。そんな人物とはとにかく話したい、期待に応えたい、と思います。学んでも、そこまで行きつかない子がほとんどですから。
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●「先生」と呼ばれるのは実は嫌だった
その生徒さんにとっても励みになったことでしょう。
瞬時に彼の目は輝きました。知らないことが恥なのではなくて、知らないことを放置するほうが恥なんです。彼はその第一歩を踏み出したわけで、誇らしいことです。そういう考えの大人の背中を見るのは、最高で最良の経験だと思います。実は私、初めのうちは「先生」と呼ばれることに抵抗があったんですが、でもそういう姿を見せていくんだ、自分は先生なんだ、と今では強く感じています。教授という称号は徹底的に何かをやってきた人にしか与えられないわけで、簡単なものじゃない。だから私も徹底的にやる覚悟はできています。
最近の教育の環境について、感じることはありますか?
ゲームというものに大人がついていけていないように思います。ゲームなんて暴力的なものだ、教育に悪い、という考えがいまだに大人の中にあって。でもマイクラはそういうものじゃないという理解はまだ浸透していません。
そういう大人の考えを、子どもたちはどう受け止めているのでしょうか。
ワークショップなんかに集まる子どもたちは、純粋に「つくる」ことが大好きなんです。だから「マイクラの一番いいところは何だ?」と聞くと、「自由にものをつくれること!」と返ってくる。「それを大人がわかってくれないのは悔しいだろ?」「そうだ!」などとやりとりしています。今の子どもたちはすごいと思いますよ。そして、この世界にもちゃんと「先生」がいるから、この生き方でも大丈夫なんだ、という安心感を与えています。保護者の方が同席されていれば、マイクラはこういうゲームで、子どもたちはこういう気持ちなんです、だから1日10分でもいい、家でマイクラをやる時間を増やしてあげてください、とお願いしています。
好きの力は大きい、と。
そうですね。私の場合、昔は役者を目指して活動もしていましたし。
えっ!?
自分の世界観を表現するのが憧れだったというか。でも、そこでエンターテイナーになることを学びました。それが今、ものづくり好きな自分と合わさって、子どもたちに対してエンターテイナーになれているんだろうと思います。好きなことを追っているうちにつながった、というか。「つくる」という共通点はありますが。実は声優の仕事も、今はオファーがあればやっています。本当に、好きなことだけ追い求めて生きてきた感じですね(笑)。でも、なんとかなってきた。そういう生き方もあることを伝えたいですね。