「お腹の中を刃物でグルグルかき回される」ほどの痛みに対して「無痛分娩は甘え…」 麻酔薬不足であぶり出される、日本の出産のあり方

「お腹を痛めて産んだ子」にみられる古い価値観

報道後、Xでは「治療が必要でなくても、痛みを軽減するために無痛分娩を選択できる権利があるはず」という旨の批判的な意見のポストがあふれかえった。

〈無痛分娩率、フィンランドは約9割、フランスは約8割、アメリカは約7割、日本はたったの6%。避けられる痛みを避けないのが普通で、大多数がそっちを選択するってほんとに意味が分からない。〉

〈妊娠した時点でいずれとんでもない激痛に襲われるの分かってるんだから、麻酔使うべきでしょ。結局のところ日本は男社会で、医者も男が多かったからこれまで軽視されてきたんだよね。これからは日本も無痛分娩を当たり前に。女性にもっと人権を。〉

また、「無痛分娩は甘え」「お腹を痛めて産んだ子」にみられる、出産にまつわる思い込みについても言及されている。

〈「つわりの薬や無痛分娩は甘え、産んだからには自己責任と母性でよろしくね!」な雰囲気しか感じないんだけど無理じゃない?〉

〈無痛分娩がない時代の「腹を痛めて産んだ子は可愛いぞ」と言う励ましの言葉が、今では「腹を痛めないと可愛いと思えない」と言う呪いの言葉になっている気がする〉

古い価値観を否定するポストが多く見られたが、その影響はいまだに根強い。筆者のまわりの経産婦でも「痛みに耐えてこそ一人前の母親」という義母の言葉をうけて、「費用面は問題ないけれど、あえて無痛分娩を選ばなかった」という者もいた。

今回の報道に対する批判は、古い価値観が揺らぐ様子を映し出したのかもしれない。

――10月8日に、厚生労働省の福岡資麿大臣による記者会見が行われた(※6)。それによると今年8月に承認されたアナペインの後発医薬品が、年内には供給開始される見込みだという。

アメリカ大統領選でも人工妊娠中絶の権利を認めるべきかどうかが、争点になっている。今後、令和の「女性の権利」はどのように変化していくのか。

プロフィール
植草良輔(うえくさ・りょうすけ)
名古屋大学産婦人科医。名古屋大学医学部を卒業し、豊橋市民病院産婦人科での勤務を経て、現在に至る。

出典元
※1『令和2年医療施設調査・病院報告の概要』 厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/20/dl/02sisetu02.pdf
※2 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000203217.pdf
※3 慈恵医大病院
https://jikei-hp.or.jp/painless/about/spread/
※4 明治安田生命https://www.meijiyasuda.co.jp/find2/light/knowledge/list/41.html#:~:text=%E8%87%AA%E7%84%B6%E5%88%86%E5%A8%A9%E3%81%AE%E8%B2%BB%E7%94%A8%E3%81%AF,%E3%81%9F%E9%87%91%E9%A1%8D%E3%81%8C%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
※5 NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241002/k10014598441000.html
※6 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00741.html

取材・文/綾部まと