パリ・サンジェルマンのルイス・エンリケ監督が、フランスでもメディアと対立している。規律違反で招集外にしたウスマンヌ・デンベレの不在も響き、チャンピオンズリーグ(CL)のリーグフェーズ第2節でアーセナルに0-2で敗北した直後だった。フランスのテレビ局『カナル・プリュス』の女性記者、マーゴット・デュモン氏から戦術に関する質問を受けると、「答えない。君には理解できないだろうからね」と返した。
女性蔑視とも捉えられたこの発言はしかし、当のデュモン氏がSNSを通じて、「私個人ではなく、報道陣に向けたメッセージだと思います。もちろん記者の1人として非難されことに変わりはありませんが」と矛を収めたことで大きな騒動に発展することはなかった。しかし記者の間で、「失礼な人間だ」といった怒りの声が上がっていたとスペイン紙『AS』は報じている。
このルイス・エンリケの記者を見下す態度は、今に始まったことではない。とりわけスペイン代表を率いていた時は、注目度の高さも相まってメディアと激しくやり合っていた。スペインでは「代表の番記者=レアル・マドリーの番記者、あるいはマドリー寄りの記者」であることが多い。よって現役時代にマドリーからバルセロナへの禁断の移籍をした過去が、反ルイス・エンリケ感情を増大させているというバルサ寄りの識者の指摘は的を射ている部分もあるが、それが全てではないことは現在フランスで起こっている状況が示している。
ルイス・エンリケがバルサを率いていた頃、クラブのコミュニケーションエリアのディレクターを務め、現在、スペイン紙『ムンド・デポルティボ』にコラムを寄稿するアルベル・モンタギュ氏も、今回のフランス人記者に対する態度を「暴言で、場違い」と一刀両断している。
前述のデンベレを招集外にした決断についても、現地では批判の声が噴出しており、元フランス代表のビセンテ・リザラズは、「時に権威と権威主義を履き違えている。デンベレのメンタルを考えれば、少し不躾さを感じる」と異を唱えている。
もっともこの点についても、ルイス・エンリケは、これまで率いてきたチームで、フランチェスコ・トッティ(ローマ)やリオネル・メッシ(バルサ)といった中心選手と衝突してきた。昨シーズンまでPSGでプレーしたキリアン・エムバペとも不仲説が取り沙汰されていた。逆にスペイン代表時代は意に背く選手をメンバーから外すことで、「ルイス・エンリケFC」と揶揄されるほど、自分のカラーにマッチしたチームを作り上げた。
しかしその一方で、前述のモンタギュ氏が、「ルイス・エンリケには、厳しく批判することを躊躇わせる愛すべき一面がある。彼の表情、笑顔、リアクションはとても人間的で裏表がない」と述べているように、近くで接すれば、その誠実な人柄に魅了されるという意見は少なくない。スペインのインターネットテレビのプラットフォーム、『モビスター・プラス』で現在配信されているドキュメンタリー番組で、9歳で亡くなった三女のシャナちゃんについて言及する姿にはまさにそうした深い人間性が垣間見えた。
一流の戦術家としても評価され、後に和解して2014-2015シーズンにルイス・エンリケの下でラ・リーガ、CL、コパ・デル・レイの3冠を達成したメッシが、ジョゼップ・グアルディオラと並んで最高の監督と賞賛し、エムバペもPSGとの契約更新を拒否したことでクラブから干されそうになった時に、仲介役を買って出てくれた行動を振り返り、「僕を救ってくれた」と感謝の気持ちを述べている。
ルイス・エンリケには建前と本音を使い分けるところがなく、モンタギュ氏はどうしてそのぶっきらぼうな態度を取る性格を直す努力をしないのかと首をかしげる。今のままでは立場が悪化する一方なのは間違いない。しかしそうした一本気なところがルイス・エンリケであり、そのスタイルをいまさら変える考えはないのであろう。アーセナル戦後には、こうも語っている。「誰かを名指しで非難する考えはない。敗戦は私の責任であり、全責任は私にある」この潔さもまたルイス・エンリケなのである。
文●下村正幸
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