キリアン・エムバペは、2022年にレアル・マドリーとの仮契約を反故にした過去がある。その行為を根に持って悪く言う連中は今なお存在する。しかし私にとって不思議なのは、その少数派以外にもマドリディスタの間でエムバペを巡る意見が分かれていることだ。
数字上では、ここまでラ・リーガで7試合に出場し5ゴール(うち3ゴールがPK)、チャンピオンズリーグで1ゴール、UEFAスーパーカップで1ゴールを記録している。もちろんエムバペの特別なステータスを考えると、数字を残すだけでは評価されない。
ゲームにインパクトを与え、守備網を打開し、並外れたプレーでネットを揺らす働きが求められる。その意味ではこのシーズン序盤のエムバペはシュートを打っても、その多くが精度が低く、威力が弱く、コースが甘い傾向がある。しかしシュートを打つことはできている。さらにチームメイトとの連携を高めるにつれて、規格外のスピードを活かしたラインブレイクやスペースメイクといった彼にしかできないプレーを見せ始めている。
一部のマドリディスタはそれでも前線において孤立気味で、決定力に欠け、得点数が多いのはPKで帳尻合わせているに過ぎず、守備をしないと主張する。
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私にはエムバペを疑うこと自体面倒だ。いうなれば彼は試合中ずっとチームを点滅させ続け、ここという場面で押せば、勝利をもたらす魅力的すぎる赤いボタンだ。ポジションを下げてボールを捌き、CBを引きつけ、サイドに流れ、いとも簡単にDFの背後を突いてしまう。シュツットガルト戦のゴールでは、対峙していたマーカーははなから加速するエムバペを追うのを諦めて、フリーでシュートを許した。
適応のスピードにも個人差というものがある。エムバペのそれはジュード・ベリンガムとは全く異なる一方で、ジネディーヌ・ジダンに近いものがあるかもしれない。だから時間の経過とともに、スプリント力は相手DFにとってより息苦しいものとなり、マドリーにとってピッチ上での彼の存在は、特にボックス外において、より有益なものになっていくはずなのだ。
現在のエムバペは、一部のマドリディスタよりも、マークするのに四苦八苦している対戦相手からより信頼されている。自軍のファンに愛されるよりも敵軍のファンに恐れられている。
そんななか、マドリーはエムバペに加えて、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ、エンドリッキという個性の異なる4人のストライカーをひけらかしている。
エスパニョール戦(マドリーが4-1で勝利)でエムバペはPKの1点のみで終わったが、流れの中から4点を決めてもおかしくはなかった。遅かれ早かれエムバペはゴールを保証しながら、フィニッシュの局面以外でも存在感を示していくはずだ。
文●マヌエル・ハボイス(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸
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