オフにサンアントニオ・スパーズへ入団した39歳のクリス・ポールは今季、NBAキャリア20シーズン目に臨む。
183cm・79kgのポイントガード(PG)はこれまでオールスターに12回、オールNBAチームに11回、オールディフェンシブチームに9回選出。さらにアシスト王に5度、スティール王に6度輝くなど、“ポイント・ゴッド”の名のごとくゲームを支配してきた。
昨季はゴールデンステイト・ウォリアーズでキャリア初の平均1桁得点(9.2)に終わったとはいえ、6.8アシスト、1.21スティールを記録したように、司令塔としての実力は失われていない。
スパーズでも先発PGとして期待されるポール。プレシーズン3試合では、平均25.0分のプレータイムで7.0点、2.3リバウンド、5.3アシスト、1.0スティールに3ポイント成功率50.0%(平均1.7本成功)と、まずまずのスタートを切っている。
スパーズは現在5シーズン連続でプレーオフから遠ざかっており、昨季もウエスタン・カンファレンス14位の22勝60敗(勝率26.8%)と低迷。強豪チームが乱立するウエストで下位チームが上位へ駆け上がることは厳しいという見立てで、米スポーツ専門局『ESPN』はスパーズがプレーオフへ進出できる可能性をわずか1.0%と予想している。
とはいえ、ポールはこれまで周囲の予想を良い意味で裏切ってきた。
オクラホマシティ・サンダーに在籍した2019-20シーズン、シェイ・ギルジャス・アレキサンダー、デニス・シュルーダー(現ブルックリン・ネッツ)、ダニーロ・ガリナーリ(現無所属)、スティーブン・アダムズ(現ヒューストン・ロケッツ)らが中心のチームは下馬評は高くなかったものの、ウエスト4位タイの44勝28敗(勝率61.1%)の好成績を残して、見事にプレーオフへと導いた。
この時、サンダーがプレーオフへ進出する可能性はわずか0.3%と見られていたのだから、ポールがスパーズを上位へ引き上げることも決して不可能ではないだろう。
現役最高峰のピック&ロールの達人は、磨き抜かれたボールハンドリングとミッドレンジジャンパー、巧みなレイアップなどで点を取りつつ、チームメイトへの的確なパスでイージーショットを演出してきた。
リーダーシップも折り紙付きで、バスケットボールの知識や経験もトップクラス。NBA開幕前の恒例企画、各球団のゼネラルマネージャー(GM)へのアンケート企画『GMサーベイ』でも、「将来ベストなヘッドコーチ(HC)になる現役選手は?」という質問で上位の常連として知られ、今年はトップの得票率30.0%を集めた。 キャリア終盤にいる大ベテランは、現地時間10月17日に地元メディア『San Antonio Express-News』へ公開された記事の中で、引退後のコーチ転身について展望を語っている。
「今日、妻とそのことについて話したよ。これまで僕は一度もコーチしたいとは言ってこなかった。でも今は考えるようになった。まだわからないけど、その答えを見出そうとしているところなんだ。
妻や友人たちはいつも、僕には豊富な知識とゲームへの愛情があるから、コーチになれると言ってくれる。けど僕は父親であることも考えてしまうんだ。(現役を引退したら)子どもたちとの暮らしがものすごく恋しくなる。だから、今の段階ではわからないね」
NBAチームの指揮官、あるいはアシスタントコーチになれば、試合だけでなくその前後の準備と反省、分析などで選手時代と変わらず多くの時間を犠牲にすることになる。
ただ、ポールは未来の名将として期待されているのも事実。昨季はスティーブ・カーHC、ロサンゼルス・クリッパーズ時代にはドック・リバースHC(現ミルウォーキー・バックスHC)、ロケッツ時代にはマイク・ダントーニHCといった名将の下でプレーした経験もある。
さらに今季は、スパーズの5度の優勝すべてを指揮し、レギュラーシーズン通算1388勝(821敗/勝率62.8%)でNBA歴代1位に立つグレッグ・ポポビッチHCと過ごすことになる。引退後のプランを考えるうえでも貴重なシーズンになりそうだ。
ポールが先発PGを務めるスパーズは、17日のロケッツ戦でプレシーズンが終了。24日(日本時間25日)のダラス・マーベリックス戦でレギュラーシーズンが幕を開ける。
文●秋山裕之(フリーライター)