Blackmagic Design導入事例:奥山大史作品「ぼくのお日さま」の場合

Blackmagic Designによると、奥山大史監督の最新作「ぼくのお日さま」の撮影にBlackmagic Pocket Cinema Camera 4K、グレーディングにDaVinci Resolve StudioおよびDaVinci Resolve Advanced Panelが使用されたという。同作は第77回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション「ある視点」部門に正式出品された。グレーディングは株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービスのカラリスト、横田早紀氏が担当した。


©2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

「ぼくのお日さま」は、雪が降り始めてから雪が溶けるまでの少年の成長を描いた作品で奥山監督自ら、監督、撮影、脚本、編集を務めた。同作は雪の降る街を舞台にすこし吃音のあるアイスホッケーが苦手な少年のタクヤとフィギュアスケートを学ぶ少女さくら、そして元フィギュアスケート選手でさくらのコーチ荒川の3人の視点で紡がれる物語だ。

奥山監督は、次のようにコメントしている。

奥山監督:子供の頃に7年間フィギュアスケートを習っていたので、スケートを題材にした映画を作ってみたいと思ったんです。また、以前ドキュメンタリーの仕事でご一緒した俳優の池松壮亮さんに映画に出てもらいたいと思ったことと、映画のタイトルにさせていただいた「ぼくのお日さま」というハンバート ハンバートさんの楽曲と出会ったことをきっかけにプロットを大幅に書き換えました。

同作のスケートのシーンでは、演者に合わせて並走するカットをBlackmagic Pocket Cinema Camera 4Kで撮影したという。

奥山監督:はじめは別のカメラをRoninにつけてテスト撮影をしてみたんですが、難しかったんです。そのほかにもソリに乗って引っ張ってもらって撮ったりもしたんですけど、全然(役者の動きに)間に合わなくて(笑)。結局RoninにPocket Cinema Camera 4Kの組み合わせで、自分が滑りながら撮るのが一番良かったです。

Blackmagic Designのカメラは学生のときに初代Pocket Cinema Cameraを買っていろいろ撮っていたし、前作の「僕はイエス様が嫌い」でもMicro Cinema Cameraを使っていたので、使い慣れていました。

難しかったのはフォーカス合わせですね。360°どこもかしこも映るようなかたちでカメラを回すので、ワイヤレスで飛ばしてリモートでフォーカスを合わせたんです。被写体とカメラの距離が肉眼では確認できないところで、モニターを見ながらフォーカスを調整するのは、優秀な撮影班が揃っていなければ絶対できないことでした。


奥山監督:フィルムっぽい画にしたかったので、16mmフィルムで撮ろうかという話もありました。ただ、自分はすごく長回ししたいタイプなんです。

今回、スケート滑りながらの撮影はスタッフが映り込まないように捌けてもらってたので、誰も止めないこともあって30分以上カメラを回していたこともよくありました。Pocket Cinema Cameraは軽くて撮りやすい上に、他のカメラの画とも馴染んで想定していたフィルムルックが実現できました。

作品の中では明言していないが物語は2001年を想定して描かれている。当時の雰囲気を作り上げるためにポストプロダクションでDaVinci Resolveが活用された。

奥山監督:現代よりちょっと昔の時代設定だったので、グレインを足したり、デフォーカスも少しだけかけたりしています。ブラックプロミストのフィルターも撮影で使ったので、ハイライトのほわっと感を横田さんに強調してもらいました。

カラリストの横田氏は、次のようにコメントしている。

横田氏:グレインは監督が作ってきた素材をいただいて、それをResolveでオーバーレイで重ねて使いました。

監督の欲しいルックがしっかりあって作品にも合っていたので、そのベースを引き継いでブラッシュアップしていきました。この作品は劇場映画なのでスクリーンでグレーディングをしました。スクリーンで見ると、モニターで見たときと印象が違うので、そういったところを調整しながら、クオリティを上げていきました。

一番印象に残っているのは、湖のシーンですね。ワンシーンの中にいろんな時間帯のカットが混ざっているんですが、カラリストって大体、シーンごとに揃えたいっていう意識がでてきちゃうんです。私も最初そうだったんですが、監督とお話ししていく中で、揃ってないのが美しい、というところが1番出ているシーンだと感じました。その時間ならではのトーンの綺麗さや明るさが、交互に来ている感じがあったので、このカットはこの色にしよう、と監督と探りながら色を作っていきました。すごく豊かなシーンになったと思います。