シント=トロイデン(STVV)のDF谷口彰悟の言葉が、今の日本代表の強さを簡潔に言い表している。
彼は9月1日のコルトレイク戦後、「もちろん試合に出れば勝利に貢献できるように頑張りますし、チャンスをもらえなくても、日本のためにできることを精一杯やっていきたいなと思います」という言葉を残してベルギーを発った。そして、ワールドカップ・アジア最終予選の中国戦(7-0)、バーレーン戦(5-0)の完封勝利に貢献してSTVVに戻ってきた。
W杯予選の最初の山場となった10月シリーズで、日本はサウジアラビアに2-0で勝ち、オーストラリアには1-1で引き分けた。
オーストラリア戦の田中碧は、谷口の言葉を具現化した選手だったのではないだろうか。もし遠藤航の体調不良が無ければ、出番はなかったかもしれない。幸い、このMFはオーストラリア戦でスポットライトを浴びたが、この2か月間、出番の全く無かった選手もいる。映像に流れるベンチを見ていると、日本代表はスタメンで戦う11人+準レギュラー陣に加え、『たくさんの田中碧』が共に戦っているのを感じる。
日本代表がチームとしてバイオリズムを高めているなか、個としてその勢いを少し落としている選手がいる。他でもない谷口だ。
15日のオーストラリア戦でクロスの処理を誤ってオウンゴールを献上し、10月20日のヘンク戦では開始15分で相手ストライカーの踵を引っ掛けって決定機を阻止し、レッドカードをもらってしまった。ベルギーリーグ屈指の攻撃力を誇る首位ヘンクが相手だっただけに、残り75分間を数的不利で戦うことになったSTVVはワンサイドで負ける可能性もあった。
結局、このタービーマッチに敗れはしたものの、最後までスリリングな試合を展開し2-3の惜敗に終わった。
ミックスゾーンに谷口が現れると、地元紙記者が呼び止め英語のインタビューが始まった。
「今日のパフォーマンスにガッカリ。僕が試合を壊してしまった。決して故意のファウルではない。僕はただ走っていただけ。アクシデントだった」
そう語る表情はこわばり、声は震えていた。ベルギーメディアとのインタビューを終えた後、「退場したことより、メンタルのほうが心配です」と声をかけた。
「代表の試合でオウンゴールをしてしまい、帰った直後の試合で前半開始早々に退場してしまうというのは、僕も想像してなかった。この試合の重要性、ダービーで負けられない相手というところを含めて自分たちのパフォーマンスを発揮したいと思っていた中でのレッドカードだったので、やっぱりメンタルに来るものがあります。ここから立ち上がって前を向いて次に進まないといけない」
【動画】開始15分でまさかのレッド。谷口の痛恨退場シーン
谷口がSTVVに加入したのはシーズンインしてから。入団直後の試合ではミスもあったが、コンディションが整ってから守備力向上に貢献した。この時期、冨安健洋と伊藤洋輝が不在の日本代表の最終ラインを支えたのも彼だった。
今回の退場で、彼は少なくとも1試合の出場停止処分を受ける。環境が変わった中でのこの2か月間、谷口はあまりに多くのことを経験してきた。次の試合は早くて2週間後。長いシーズンのことを思えば、これを積極的休養と捉えてもいいのではないか。
試合が終わると、ヘンクのCBスメットが思わずピッチの上に座り込んだ。STVVは10人全員が+アルファのタスクをこなすことで数的不利をカモフラージュした。例えば藤田譲瑠チマ。24分のフォーメーション変更により、STVVは中盤を2枚から3枚にした。その中央でアンカーのような立ち位置を取った藤田は、ヘンクの長身アンカー、バングラがボールを持つと果敢に前に出て行って潰しにかかった。横のカバー範囲の広さを保ちながら、縦への勢いを伴ってバングラにチャレンジし、しかもヘンクのボールの動かし方を見ながらポジションを修正して背後のスペースを突かせなかった。
オフ・ザ・ボールでバングラを封じたのが藤田なら、オン・ザ・ボールでバングラと対峙したのが伊藤涼太郎だった。現地で『マジシャン』と呼ばれるファンタジスタは、190センチの大男から身体を密着されても動じること無く脅威のキープ力を発揮し、1対1の局面なのにまるで2対1のような余裕を時おり中盤で作った。そして機を見てスコアリングポジションに飛び出し3本のシュートを放ったが、後半の好機を外すなど不発に終わった。
「チームとしてはよく戦った。ただ、後半はチャンスが多く、僕自身にもチャンスがあった。仕留めないといけないシーンも何個があったので、よくやった反面、勝たないといけないゲームでした。個人としてはもっともっとやらないといけない、と感じたゲームでした。前半最初の方に自分が打ったチャンスを決めていれば多分、(谷口)彰悟くんは退場になってなかった。個人的には今日はすごく悔いの残るゲームでした」
開始13分、藤田が相手ボールを奪ってからSTVVがカウンターを仕掛け、伊藤がフリーでシュートを打ったもののDFで当ててしまったシーン。その後のカウンターで谷口は退場になった。
「最近、自分のフィーリングがよくなってきた感じがあったので、今日の試合もすごい自信があったし、首位のヘンクに対して本当に勝てるチャンスがあると思っていた。今日は自分自身に期待していたんですが、こういう結果になって残念です」
今年の元旦、伊藤はタイとの親善試合で代表デビューを果たしたが、その後、招集されることなく現在に至る。しかも10か月前と比べて今の日本は遥かに強くなっており、代表の選手に要求されるものはよりハイレベルになっている。代表復帰に向けて、伊藤が思うことは何だろうか? 眼光鋭く、こう答えた。
「僕が代表に選ばれるとしたら――こんなことを言ったらアレですが、移籍が大事なのかなと思います。僕は5大リーグに行くことが必須だと思っている。ここ(STVV、ベルギーリーグ)で目に見える結果だったり、目に見える活躍をする“だけ”でなく、しっかりいいチームに移籍して高いレベルでプレーするというのが、今の代表に一番大事なモノだと思います」
伊藤の言葉は「現状の環境に甘んじていたらダメだ」という行間の意味を含ませながら、自身にプレッシャーをかけているかのようだった。
取材・文●中田徹
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