「活躍をすぐに期待するのは明らかに過大」ミランの“神童”カマルダ、16歳でCLデビュー&幻ゴールも…「段階を踏んで成長し、1~2年後のブレイクが理想的」【現地発コラム】

 10月22日のUEFAチャンピオンズリーグ第3節、ACミラン対ブルージュで、ミランの「神童」フランチェスコ・カマルダが、16歳266日というイタリア人史上最年少記録でCLデビューを果たした。

 アルバロ・モラタとの交代でピッチに立ったのは、3ー1とミランがリードした75分。4ー2ー3ー1のセンターフォワードとして最前線中央に位置を取ると、87分にはCKからのクロスを頭で合わせてゴールネットを揺らし、満員のサン・シーロを興奮の渦に巻き込んだ。残念ながらこの得点はVARチェックによるオフサイド判定で取り消され「幻のゴール」に終わったものの、その傑出したクオリティーを垣間見せるには十分なものだった。 

 2008年3月10日生まれのカマルダは、かねてからイタリアサッカー界で注目と賞賛を集めてきたスーパータレント。その才能がどれだけ際立ったものかは、ここまで辿ってきたキャリアを見れば一目瞭然だ。

 7歳でミランのアカデミーに入り、10歳からの3年間で87試合483得点(1試合平均5.6得点)というとてつもない記録を残すと、13歳でUー15、14歳でUー16と常に2歳上のカテゴリーでプレー。15歳になった昨シーズンは育成年代のトップカテゴリーであるプリマベーラ(Uー19)で、3歳年上の選手たちに混じって9番を背負い、さらに23年11月25日には15歳260日と史上最年少でのセリエAデビューまで果たしている。 

 代表レベルでも、22年9月に14歳でイタリアUー15代表、その3か月後には2歳上にあたるUー16代表にデビューし、15歳になった昨シーズンはUー17代表でエースストライカーの座に君臨。今年6月のUー17欧州選手権で5試合4得点を挙げてイタリアを史上初の優勝へと導き、決勝での2得点が評価されて大会MVPに輝いた。翌7月に今度はUー19欧州選手権にも招集され、準決勝(スペインに延長戦で0ー1敗戦)までの4試合中3試合に出場、2得点を挙げている。
【動画】16歳の“神童”カマルダのCLデビュー&幻ゴール!
 つまるところ、本格的にサッカーを始めてから16歳の現在まで、同年代では常に別格、というよりも別世界の存在として「神童」扱いを受けてきた特別なプレーヤーだということ。ひとつ年上の2007年生まれには、ラミネ・ヤマル、パウ・クバルシ(いずれもバルセロナ)という、すでにメガクラブで主力としてプレーしている天才がいるが、2008年生まれの中では注目度、評価ともに欧州ナンバー1と言っていい。純粋なセンターフォワードにカテゴリーを限れば、3歳上の2005年生まれまでが含まれる欧州のユースカテゴリー(Uー19)全体でもトップ5に入る評価を受けている。
 
 身長184センチはCFとしては標準的(16歳としては十分に大きい)だが、75キロという体重が示すように体型的には細身でまだ成長途上。上半身、下半身ともにさらに筋肉がつく余地を残している。プレースタイルも早熟な大型選手にありがちな、体格や運動能力といったフィジカル的な優位にモノを言わせて(同世代の)相手を圧倒するというものではなく、軽くしなやかな身のこなしとスピード、そして左右両足を自在に操るテクニックを武器とするもの。

 育成年代から常にセンターフォワードとしてプレーしてきたが、最前線中央に陣取ってDFを背負う基準点型のパワーストライカーではなく、前線を広く動き回ってボールに関与し、タイミングよくペナルティーエリアに入り込んでフィニッシュに絡むムービングストライカータイプ。2ライン(相手DFとMF)間で前を向いてドリブルで仕掛けることもできるが、最も本領を発揮するのはやはりゴール前。的確な読みに根差したオフ・ザ・ボールの鋭い動きでマークを外し、シュートに必要な時間とスペースを作り出すと、正確なシュートでゴールの枠を捉える。

 1990年代のミラン黄金時代にCBとして活躍し、現在は衛星TV局スカイ・イタリアのオピニオニストを務めるアレッサンドロ・コスタクルタは、「今までたくさんのFWを見てきたが、ペナルティーエリア内でマークを外してフリーになる能力でカマルダを上回っているのは、フィリッポ・インザーギだけだ」と断言している。 そんなカマルダにとって今シーズンは、ユースカテゴリーを飛び級で「卒業」し、大人のカテゴリーで本格的なプロキャリアをスタートした最初のシーズンということになる。主戦場となっているのは、ミランが今シーズン、プリマベーラとトップチームのギャップを埋めるために新設したUー23のBチーム「ミラン・フトゥーロ」(セリエC=3部リーグ)。ここでもレギュラーCFとして背番号9を背負い、ここまで5試合1得点という結果を残している。

 今回のCLデビューは、タミー・エイブラハムが故障離脱、ルカ・ヨビッチが登録メンバー外という状況で、モラタの控えとして招集されたもの。このブルージュ戦に備え、週末のセリエCでは前半45分だけで交代して疲労を抑えていた。

 冒頭で見た通り、途中出場したデビュー戦の限られた時間の中で、「幻」に終わったとはいえ、密集の中でフリーになってヘディングシュートを放って見せた事実は、持てるタレントの証明と言える。とはいえ、ユースカテゴリーで「神童」と呼ばれても、大人のカテゴリーで同じように傑出した存在となり、決定的な違いを作り出せるとは限らない。

 例えば、同じミランで10年前に同じような注目を集めたハキム・マストゥールは、その後まったく結果を残せないまま、今26歳でキャリアを終えようとしている。バルセロナのカンテラで900以上とも言われるゴールを挙げたボージャン・クルキッチも、17歳でトップチームにデビューしたシーズン(10得点3アシスト)がキャリアハイで、その後は「並の」ストライカーとしてキャリアを送った。「神童」は毎年のように生まれても、リオネル・メッシやヤマルは30年に1人しか生まれないのがフットボールの現実だ。
  何よりも忘れるわけにいかないのは、カマルダはまだ「たったの」16歳に過ぎないという事実。すでにユースカテゴリーの枠に収まらないレベルに到達しているとはいえ、セリエAやCLでの活躍をすぐに期待するのは明らかに過大だろう。
 
 ヤマルは別格だが、ワレン・ザイール=エムリ(パリ・サンジェルマン)やコビー・メイヌー(マンチェスター・ユナイテッド)からアルダ・ギュレル(レアル・マドリー)、ケナン・ユルドゥズ(ユベントス)まで、今18~19歳で5大リーグやCLで活躍しているスーパーなタレントたちのほとんどは、16~17歳の頃に大人のカテゴリーの入り口であるBチームで伸び伸びとプレーしながら経験を重ね、段階を踏んで成長してきた。カマルダもまた同じような経験を経て、より完成されたストライカーとして1年後、2年後にトップチームでブレイクするのが理想的なキャリアパスではないだろうか。

 イタリアでは、インザーギ、クリスティアン・ヴィエリ、ヴィンチェンツォ・モンテッラ、フランチェスコ・トッティ、アレッサンドロ・デル・ピエロら1970年代生まれの世代を最後にここ20年以上、ワールドクラスのストライカーが生まれていない。

 その意味でカマルダは、ミランにとってはもちろんイタリア代表にとっても、今後10年から15年の未来を担うべき至宝と言える。これからも大きな注目と期待を浴びることは避けられないが、過大なプレッシャーに潰されることなく着実に成長してくれることを願って止まない。

構成●THE DIGEST編集部

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