初めてインタビュー取材した選手が、伊東輝悦だった。
2006年の夏にサッカーダイジェスト編集部に異動し、清水エスパルスを担当。当時調子が良かった清水の特集が組まれ、伊東に話を訊いてみたかった。
先輩からは「よくテルに行ったね」と心配された。“初めてなのに大丈夫?”という意味だろう。あまり口数が多いタイプでないことは、何となく知っている。自分でも明確な理由は思い出せないが、藤本淳吾でも青山直晃でもなく、テルだった。
取材ルームで待っていると、ラフな格好のテルが入ってきた。コンビニ袋を手に持っている。たぶん週刊誌が入っているのだろう。
インタビューは特に問題なく進んだが、途中で言葉につまった。訊きたいことをうまく言葉にできない。しばしの沈黙…やばい、どうしよう。と焦った瞬間、これまでの話の流れから、たぶんこういうことでしょ、と言わんばかりに、テルが話し始めてくれた。
優しい人。それがテルの第一印象だった。
また別の企画でインタビューした時は、これぞボランチという“鋭い読み”を目の当たりにした。テルも出場したアトランタ五輪のナイジェリア戦、ハーフタイムでの出来事。広く取り沙汰された監督と一部選手の衝突。その真相を引き出したかった。
デリケートな内容なので、まずは外堀から埋めていくように質問する。だが、そんな浅はかなアプローチをテルはお見通しだ。核心に触れる前に、だいぶ前に、テルは言った。「あ、あのこと? 俺、知らねーんだよ(笑)。ほんと。聞いてなかったから」。身体を休めること、後半の戦いに集中していたのだろう。それもまたテルらしい。
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ピッチ上でも随所に鋭い読みを披露していた。いつの試合かは忘れたが、日本平での鹿島アントラーズ戦だ。セットプレーからカウンターを食らう。ボールを持って突進してくるのはマルキーニョス。自陣で残っているのはテルだけ。
絶対無理だろこれ、と思った。だがオレンジの7番は完璧に相手の動きを読んで、クリーンに奪ってみせた。スピードを遅らせるとか、ガチャガチャと粘ってとか、そういうレベルではない。かなりの勢いで迫りくるマルキーニョスにすっと寄せて、さっと足を出してボールをかすめ取る。いとも簡単に。今でも鮮明に覚えているビッグプレーだ。
2010年には、ともに翌シーズンから甲府に移籍する市川大祐との対談もやらせてもらった。テルを取材したのは、これが最後だったと思う。
清水を離れてからも、テルは甲府、長野、秋田、そして現所属の沼津でプレー。その活躍ぶりはテレビや誌面などでしか知らなかったが、あの顔をクシャっとさせた笑顔を見ると、どこかホッとした。大好きなサッカーを楽しんでいるんだろうな、と。
今年8月31日に50歳を迎えた大ベテランは、それから2か月後に今季限りでの現役引退を発表。ついにその時が訪れた。Jリーグが誕生した1993年からプロキャリアをスタートさせた偉大なるフットボーラーがスパイクを脱ぐ。四半世紀をゆうに超える年月を考えれば、別段驚くことではないが、あのテルがピッチを離れる姿がなかなか想像できない。
文●広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)
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