バロンドールのトロフィーって重いの? 製作費用は? 意外と知らない「黄金の球」のあれこれ。作っているのはマリー・アントワネットも顧客だった宝飾品メーカー

 今年もバロンドールが発表され、マンチェスター・シティのロドリが受賞を果たした。
 
 バロンドールは1956年にフランスのサッカー雑誌『フランス・フットボール』が創設した賞だ。当初はヨーロッパの選手のみを対象とし、欧州年間最優秀選手賞として広く知られていたが、95年にヨーロッパのクラブでプレーするあらゆる国籍の選手にまで対象が拡大。2007年には世界中のすべてのプロサッカー選手が対象となった。

 10年からはFIFA年間最優秀選手賞と統合されるも、16年に再び分離している。24年はUEFAとの共同で開催された。
 
 投票は元々ジャーナリストのみによって行なわれていたが、06年には代表チームのコーチやキャプテンにも投票権が与えられた。しかし、さまざまな問題が発生し、16年以降は再びジャーナリストのみによる投票へ戻された。また、22年からは、暦年の業績ではなくシーズンの業績に基づいて授与されるようになっている。
 
 バロンドール受賞者には主催者から賞金は一切授与されない(それぞれ選手の契約スポンサーから提供されることはあるが)。選手が受け取るのはトロフィーのみだ。
 
 しかし、このトロフィーが特別である。製作しているのは、フランスのジュエリーメーカー『メレリオ・ディ・メレー』。1613年創業の老舗で、かのマリー・アントワネットも顧客だったという。メレリオによると、トロフィーの製造工程は第1回から変わらず、すべて職人が手作業で完成させる。制作には約6か月かかるという。まさに芸術品だ。
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 まず、真鍮の半球を2つはんだ付けし、サッカーボールと同じ12枚の正五角形と20枚の正六角形、計32枚のパネルを貼り合わせていく。ちなみにこの形状は、アルキメデスが発見したと言われている。
 
 ひとつのパネルの制作には15時間ほどをかけ、熟練職人が緻密に作業を行なう。その後、18金の金メッキが施され、フランス・フットボールの媒体名と受賞者の名前が彫られる。
 
 ボールを支える台座は、金メッキではなくパイライト(黄鉄鉱)で作られていて、金と同じような色と輝きを持つ。トロフィーの重さは7.2キロ、高さは31センチ。製作費は3500ユーロとされているが、市場に出れば芸術的価値とプレミアムを加味し、50万ユーロは下らないだろう。リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドのトロフィーであれば、100万ユーロを超えるかもしれない。ただし、これまでにバロンドールを売却した選手はいない。
 
 なお、昨年から『ルイ・ヴィトン』が2年連続でトロフィー用のカスタムメイドトランクを製作している。まさにフランスのエスプリが詰まったトロフィーだ。
 
 初回の受賞者はスタンリー・マシューズで、当時41歳という最年長での受賞だった。最多受賞はリオネル・メッシの8回。また、ゴールキーパーで唯一の受賞者は1963年のレフ・ヤシンのみである。73年にディノ・ゾフ、2006年にジャンルイジ・ブッフォンが受賞に迫ったが、叶わなかった。こうした経緯から「バロンドールは攻撃的な選手に偏りすぎている」「ただの人気投票」という批判もある。
 
 2018年には女子のバロンドールも創設された。
 
 バロンドールはフランス主催の賞であり、表彰式はパリで華々しく行なわれる。フランス人の受賞者には、ミシェル・プラティニ(1983年、84年、85年)、レイモン・コパ(1958年)、ジネディーヌ・ジダン(1998年)、カリム・ベンゼマ(2022年)などがいるが、リーグ・アンのクラブ在籍時に受賞した選手は、1991年のジャン=ピエール・パパン(当時マルセイユ)ただ一人である。フランス人にとっては複雑な思いがあるかもしれない。
 
取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
 
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。

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