ふたりのスペシャル対談も最後の第4弾だ。多くの経験を積んできたふたりだからこそ、後進たちへ伝えられるメッセージがある。そして今後への想いとは?(全4回の4回目)。
――◆――◆――
――改めてやっぱり30歳を過ぎると身体の変化を感じるようになりますか?
小林 35歳ぐらいからですかね。
太田 でも年齢よりも、試合に出られなくなってくるタイミングがひとつの境なのかもしれないですね。試合に出られないと、コンディション作りはやっぱり大変。毎週定期的に試合がくるなかで、どう準備をするか。
小林 コンディションもそうだし、気持ちの面でも難しいところはあるよね。試合に出続けていれば、コンディショは落ちにくいし、気持ちの切り替えもできるから。でも先ほども先輩たちの姿について話したけど、常に気持ちを高く持っていなくてはいけない。
太田 俺はやり続けたことがつながって、去年、最後の5、6試合に先発で出られたけど、コンディション、身体の調子が上がっていく感覚を久しぶりに感じて。
小林 そこはそうだよね。
太田 試合に出ることって、やっぱりベテランになればなるほど、大事なんだなって。試合をやるにつれてどんどん動けるようになって、自信もついてくるし、自分の中で終わりだと思っていたけどやれるじゃん、と。だから、ヤバい、引退するってもう言っちゃったって気持ちも(笑)。
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――小林選手は気持ちの作り方として特別な方法はあるんですか?
小林 どうだろう? でもベンチでも試合が始まっちゃえば、自然と気持ちは高ぶっていきますし、負けていたり、ゴールが必要な場面のほうが、勝手にモチベーションは上がりますね。
太田 あとは家族のためとかじゃない? 若い時と違って、家族ができて、子どもが生まれて、子どものためにという想いが強烈なモチベーションになるよね。
小林 それはまさにだね。
――さて色々な話を訊いてきましたが、小林選手と言えば、愛情を込めて“ポンコツ”と呼ばれることが多く、ピッチを一度離れると、様々なネタを提供してくれています。今季の開幕前には「二桁ゴール」と目標を書こうとしたところを「二行ゴール」と書いてしまい、話題になりました。
太田 そういうとこはかわいいよね(笑)。
小林 でも高校の時まではそんなことはなかったよね? しっかりしていたと思うんだよな。
太田 それは確かに、悠はめちゃくちゃしっかりしていた。逆に俺が隣の席の悠に色々聞いていたくらいだから。
小林 その感覚をもう忘れちゃっているんだけどね(笑)。
太田 悠はポンコツではなく、真面目な優等生だったんだよな。
小林 ほら!! 聞きました? そういうことなんですよ。でもどこかのタイミングで今のようになって…。
――今では小林選手のネタは満載ですからね。最近も何かありましたか?
小林 いっぱいありすぎて分からないんですよね。それこそ、この間、前泊していたホテルでエレベーターのほうに行こうとしたのに、なぜかひとりで行き止まりのほうに向かって歩いていて。バレないように無言で戻ったんだけど、それを(山内)日向汰に見られていて、『どこ行こうとしていたんですか?』とツッコまれたり。
太田 でも良いと思うよ。俺らの頃って、ベテランの選手はやっぱり怖かったけど、悠はみんなから愛されているから。
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――では改めて、おふたりが考えるプロ選手として大事なこと、そして後進たちに伝えたいことはありますか?
小林 なんだろう、難しいですね。でも先ほど話したように、歳を取ってくると余計に感じますが、時間って思ったよりない。自分も若い時はそんなこと気にしていなかったけど、サッカー選手でいられる時間って本当に少ない。あっという間。だからやっぱり1日1日を大切にすることは何より大事かなと。
それぞれにやり方はあると思うのですが、練習前の準備であったり、プロでいられる時間の使い方は、より意識したほうが良いとは学んできましたね。その意味では、もっとサッカーに対して真剣に、貪欲に、やってもいいのかなとも思います。
太田 それは間違いないね。
――若いうちからそういうところに気付けるかどうかですね。
小林 選手人生まだまだっていう気持ちになるのは分かるんです。自分もそうだったので。でも年を取ってくると感覚が変わり、そうじゃないんだぞと教えてあげたいなと。それこそ、海外に行った(三笘)薫、(旗手)怜央、(田中)碧らは、食事、睡眠などに関する意識が全然違いましたね。なんだか見ている世界が違うというような…。
太田 今、悠が言ったことですよね。その意味では、身近な環境でそれを感じられるか、チームメイトにそういう先輩がいるかも大事で、フロンターレの若い選手は悠を含めて勉強になる背中を近くで見ているはずだから、良い環境にあると言えるんじゃないですかね。
――では、小林選手の今後の目標は? 通算得点で言えば、小林選手は現在141ゴールで歴代7位。歴代6位のマルキーニョスさんは152得点で、歴代1位の大久保嘉人さんは191得点です。
小林 嘉人さん超えにはあと50ゴール。これは諦めました(笑)。次のマルキーニョスも少し離れているんですよね。でもやっぱり1ゴールでも多く取りたい。子どもたちにひとつでも多くのゴールを見せたいですね。
太田 俺にも?
小林 いつも見てないでしょ?
太田 失礼な、ダ・ゾーンで毎回チェックしているよ(笑)。
小林 いやでも宏介がさっき言ってくれましたけど、自分がゴールを決めることで、喜んでくれたり、元気になってくれる方が、家族を含めていてくれるなら、自分は最後までゴールを目指し続けなきゃいけない。諦めちゃいけないと思うので、やり切るだけですね。
――太田さんは改めて小林選手に期待することは、どうですか?
太田 まずはユニホームを(笑)。というのは冗談で、1年でも長く、1試合でも多く、1点でも多くというのが、僕だけじゃなく、小さい頃から悠を見ている仲間たちも含めた願いですし、それはフロンターレのサポーターの方々も同じだと思います。ただベテランの苦しみも自分は知っているし、長くやれば良いってもんでもない。身体と心の問題も色々あるだろうから。だから一番は楽しんでもらいたいという、そこですね。
小林 そうだね、楽しみながら、頑張りたいと思います!!
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
■プロフィール
こばやし・ゆう/1987年9月23日生まれ、東京都出身。177㌢・72㌔。町田JFC―町田JFC Jrユース―麻布台附渕野辺高―拓殖大―川崎。J1通算388試合・141得点。日本代表通算14試合・2得点。川崎サポーターに愛され続ける魂のストライカー。
おおた・こうすけ/1987年7月23日生まれ、東京都出身。179㌢・78㌔。つくし野SSS―FC町田―麻布台附渕野辺高―横浜FC―清水―FC東京―フィテッセ(オランダ)―FC東京―名古屋―パース・グローリー(オーストラリア)―町田。J1通算296試合・11得点。日本代表通算7試合・0得点。レフティSBとして活躍し、昨季限りで現役を引退。現在は町田のアンバサダーなどを務める。