今シーズンのF1タイトル争いを繰り広げるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とランド・ノリス(マクラーレン)。過去2戦はホイール・トゥ・ホイールの劇的なバトルを展開したが、ノリスは直接のライバルとのバトルにジレンマを抱えている。
フェルスタッペンとのタイトル争いが激しさを増す中、ノリスは銃撃戦にナイフを持ち込めないことを受け入れなければならないだろう。フェルスタッペンは4度目のチャンピオンを逃すまいと、ノリスに対してもF1に対しても、限界まであるいは限界を超えても構わないと思っている。
彼の攻撃的な守備戦術は、F1アメリカGPでのノリスとのバトルでクローズアップされ、F1ドライビング・スタンダード・ガイドラインの変更を求める動きにつながった。
しかしメキシコでフェルスタッペンが仕掛けた、”ダイブボム”のようなアグレッシブな動きはおそらく、彼の真の考え方を浮き彫りにしたものだろう。
というのも、オースティンでもメキシコでも、フェルスタッペンがノリスを確実に抑えることに集中した結果、フェラーリにコンストラクターズ選手権でレッドブルを追い抜くチャンスを与えてしまったからだ。
フェラーリのシャルル・ルクレールはF1アメリカGPに続いてふたりのバトルの漁夫の利を得たことで、「マックスがランドに対して可能な限りアグレッシブなのは大歓迎だ」と語っている。
レッドブルのマシンのペースが落ちているため、フェルスタッペンはノリスを意識した走りをせざるを得ないのだ。
メキシコシティGPの後、フェルスタッペンは「問題は僕らが遅すぎるということで、だからああいうポジションに置かれているんだ」と認めている。
メキシコでは2度のペナルティで計20秒のタイム加算ペナルティを受けたが、フェルスタッペンは動じることなく、不遜な態度を貫いている。彼は『Sky』に対し、今後同じようなことが繰り返された場合、20秒間のピットストップ中に飲み物を飲むことくらいしか変わらないとまで示唆した。
タイトルを獲るためならどんなことでもするという姿勢は、彼が今、おそらくレースに勝つには不十分なマシンに乗っていることが分かっているからこそなのだろう。ノリスは自分を押し出すことを厭わないライバルと戦うリスクを認識している。そして、この状況に対処するための最善のアプローチを練ることは容易ではない。
メキシコでは、ノリスはトラブルに巻き込まれないというスタンスをとった。タイトルへの望みを絶つようなアクシデントに見舞われるリスクを冒して踏ん張るよりも、危険な状況に巻き込まれずに別の機会に戦う方がずっといいということをわかっていたからだ。
それがフェルスタッペンを心理的に優位に立たせているという非難もあるだろうが、ノリスは常に従属的な役割を演じ、衝突を避ける存在でなければならない。
しかし、これが終盤戦におけるチャンピオン争いの現実なのだ。ポイントリーダーは常に、より多くのリスクを冒すことができ、2台がリタイアしても大きなマイナスを被らない余裕を持つ者であるという点で優位に立っている。
もしミハエル・シューマッハーが1994年のアデレードや1997年のヘレスで、ビハインドで決勝を迎えていたら、まったく同じ走りをしただろうか? 1990年の鈴鹿でのアイルトン・セナは? ありえないだろう。
ノリスは自分が追う側であって追われる側ではないという現実から逃れられないことを知っている。
メキシコシティGP後、ノリスはフェルスタッペンについて「彼はチャンピオンシップで非常に強力なポジションにいる。大きな差があるし、彼は失うものは何もない」と語っている。
「みんなは、逆のことを言うかもしれないけど、でもそうではないんだ」
「僕は自分のことに集中している。自分の仕事をしているし、今日はいい仕事だった。そして、この週末すべてに満足している」
「でも、彼をコントロールするのは僕の仕事じゃない。彼はドライビングの仕方を知っている。彼は今日(メキシコでの決勝)おそらく少し限界を超えていたこともわかっているはずだ」
ノリスがクラッシュのリスクを冒すことができないのは明らかだが、この魅力的なタイトル争いが最終章に突入するメキシコ以降、彼には2つの切り札がある。
1つ目は、マクラーレンが導入した新しいフロアが機能し、ペース面でもMCL38はレースに勝つために必要なパフォーマンスをまだ持っているということだ。
メキシコシティGPで優勝したのはカルロス・サインツJr.(フェラーリ)だったとはいえ、ノリスが序盤にフェルスタッペンの後ろでタイムをロスしていなければ、状況は大きく変わっていたかもしれない。
つまり、ノリスとマクラーレンはレースウイークを完璧にこなせば、タイトル争いは自ずとうまく転がるとわかっている。そうすれば、フェルスタッペンとホイール・トゥ・ホイールのバトルを繰り広げるリスクはないはずだからだ。
マクラーレン代表のアンドレア・ステラは次のように語った。
「我々がランドに伝えたメッセージは、『我々にはペースがある。もし彼をパスできるなら、そうしよう』だった。というのも、どこかの段階でフェラーリと戦えることはわかっていたし、マックスの後ろでタイムを失っていたからだ」
「だが我々が言う必要もなく、ランドはそのオーバーテイクが安全な方法で行なわれる必要があることをよく知っていた、なぜなら我々はドライバーズ選手権とコンストラクターズ選手権の両面で戦っているからだ」
ふたつ目のプラス要素は、FIAが介入し、行き過ぎた行為には罰則を科すという前例が得られたことだ。
もしフェルスタッペンに科せられたペナルティのどちらか、あるいは両方がないままメキシコを去っていたら、これからどのようにレースに臨むべきか、そしてバトルで何が許され、何が許されないかをどう頭の中で決めるべきか、とてつもなく不確かになっていただろう。
前例ができたことで、レースコントロールが公正なレースを行なうことを保証してくれるだろう。
ステラ代表はフェルスタッペンとのインシデントについて、次のように付け加えた。
「我々の会話と内部レビューは常に非常に明確だった。『ランド、我々は君のレースのやり方が好きだし、承認し、確認している。自分からあちらに行って、正義を見つける必要はない』とね」
「君は君らしくフェアでスポーツ的な方法でレースに臨み、そしてある動きが正しいかどうか判断するスチュワードという第三者が必要なのだ。自暴自棄になり、何かを証明する必要はない」
「ハードなレースをするのはいいことだと思うが、2人のドライバーだけでは解決できない。第三者が必要であり、権威が必要なんだ。ランドがこれまでレースをしてきたことにはまったく満足している」
「(ノリスとフェルスタッペンの戦いについて)そうした見出しのニュースを読むたびに、私はいつもランドと会話をして彼を安心させる必要があったんだ」
今季は残り4戦。そのうち2戦でスプリントが行なわれる。いよいよ大詰めだが、フェルスタッペンとノリスの差は47ポイント。逆転は十分可能な点差だ。しかし、リタイアを喫するような大きなミスは許されない。
そのためにもノリスは自分のパフォーマンスに集中し、フェルスタッペンから離れて……できればバトルにならないほど前でレースをする必要があるだろう。