前橋育英のエースストライカーであるオノノジュ慶吏。現在、プレミアリーグEASTで10ゴールを記録し得点ランキングでトップを走る彼が、選手権予選でも豪快な一撃を放った。
群馬県予選の準決勝で、前橋育英は県内最大のライバルである桐生第一と大一番を迎えた。だがオノノジュは大会2週間前のプレミアEAST第19節の大宮アルディージャU-18戦で10ゴール目を挙げた後に負傷し、その影響でベンチスタートだった。
診断は右足首の内側靭帯の捻挫。この試合の出場時間は25分以内と制限があったため、後半途中からではないと出番が来ない状況だった。
オノノジュが山田耕介監督に呼ばれたのは、1-0のリードで迎えた55分のことだった。MF白井誠也に代わって投入されると、67分にはMF平林尊琉のスルーパスに抜け出して決定機を迎えた。
放ったシュートは桐生第一のGK上林海晴のファインセーブに遭うが、反撃に転じたかった桐生第一にとって、爆発的なスピードとパンチ力があるオノノジュの脅威を痛感するには十分な一撃だった。
ラインを高くして攻撃に枚数をかけたいが、常にオノノジュに背後のスペースを狙われている。思うように攻撃が組み立てられないなか、刻一刻と時間が過ぎていく。
桐生第一がより高いディフェンスラインを敷いた75分、自陣からのクリアボールのこぼれ球が最前線にいたオノノジュに渡ると、一気に高速ドリブルを仕掛けてDF2人を置き去りにしてGKとの1対1を今度は正確に蹴り込んで試合を決定づける3点目。3-0の完勝劇を締め括った。
「やっぱり選手権は僕にとって特別な大会。どうしても出たいし、どんなに自分のコンディションが悪くてもチームに貢献したいと思っているので、出場を志願しました」
前述したとおり足の状態はまだ万全ではない。だが、オノノジュにとって前橋育英というチーム、選手権という大会は、自分の人生を大きく変えてくれた場所だった。
「小学校の頃からずっとテレビで選手権を見ていて、出たいなと思っていた舞台でした。(FC東京U-15むさしから)FC東京U-18に昇格できないとなった時に、選手権に絶対に出たくて、プレースタイルが合うと思った前橋育英に決めました」
高校3年間での成長を誓って高校サッカー屈指の名門に飛び込んだオノノジュは、2年生になってから出番を掴んだ。昨年のプレミアEAST第5節の尚志戦で途中出場からデビューするといきなり初ゴールを決めるも、その後は途中出場が続き、リーグ終盤はスタメンを掴んだが、リーグ2点目を挙げることはできなかった。
だが、自身初の選手権で彼は一気に注目の存在となった。チームは2回戦で神戸弘陵に敗れたが、1回戦の立正大淞南戦で彼は持ち前のスピードとパワーを爆発させて圧巻の2ゴールをマーク。U-17日本高校選抜にも選ばれた。
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「正直、選手権まで僕はどこかプレーで消極的な部分があったのですが、あの選手権の舞台で2ゴールを決めてからは、『自分はストライカーなんだ』という自覚が芽生えたというか、自分が点を決めるんだという気持ちが強くなりました」
点を取ることこそ自分の仕事であり、責務である。憧れていた大舞台で無我夢中でプレーして結果が出たことにより、自覚と自信が芽生えた。
もっとも、それが結果として表われるのには時間がかかり、今年のプレミア初ゴールは第7節の横浜FCユース戦だった。だが、このゴールで「自分が点を決める時は、何も考えないでやっていることが多い。深く考えている時は外すことが多いのですが、流れの中で瞬間的に自分が練習を積み重ねてきたことを出せた時に点が生まれている。それに改めて気づいた」と、無心になることの大切さに気づいた彼は、ここから量産態勢に入った。
「選手権の厳しさを痛感したからこそ、僕らの代である今年は去年より活躍をして、結果も大きく越えていきたい。だからこそ、県予選は負けたら終わってしまうので、もう痛いなんて言っていられないんです」
3年間で大きな成長を遂げたオノノジュにとって、選手権はより特別な場所となった。もちろん無理は禁物だが、彼の熱い思いは十分に伝わってくる。9日の共愛学園との決勝戦に向けて、オノノジュは自分の出番が来た時に獰猛な牙をむき出しにするべく、仲間を信じ、かつ飢えに飢えてその時を心待ちにしている。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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