10月15日、埼玉スタジアム。2026年W杯アジア最終予選、オーストラリアは日本と1-1で引き分けている。先制しながら追いつかれる形だったが、貴重な勝点1だった。グループリーグは2位をキープし、悪くない結果と言えるだろう。
しかしながら、プレー内容は“悲惨”だった。自陣に立てこもり、完全にサッカーを捨てた。なりふり構わない戦い方だった。
「Poner el Autobus」
それはスペイン語で「バスを置く」と言われる古典的な戦術である。つまり、ゴール前にバスを置いたバリケード戦術で、サッカーを放棄し、攻め手は考えていない。イタリアのカテナチオ(閂を懸ける)に近いが、早く言えば人海戦術で、決して上等なものではない。
1980、90年代までは、一つの戦い方として横行していた。ゴール前に人を集め、中央から決して自由にシュートを打たせない。5バックで城門を閉ざし、近づくものをはねのける、専守防衛だ。
スペインでは、1994年W杯でスペイン代表を率いたハビエル・クレメンテ監督が得意としていた。屈強な男たちをバックラインにそろえ、中盤のラインの選手たちはファイターで、前線に長身でクロスを一発で放り込めるストライカーを擁する。率直に言って、面白味がない。しかし、相手に攻め疲れを生じさせるとミスも誘うことになり、“負けない確率”を高めることができた。
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しかし時代の流れの中、スタンダードではなくなった。なぜなら、ゴール前にいくら人を集めても、エリア内にボールを入れてしまえばアクシデントを起こせるからだ。例えば、一人で切り込むようなドリブラー、質の高いボールを放り込めるクロッサー、あるいは中距離のシュートを得意とするMF。彼らの攻撃のこぼれを再攻撃できれば、十分に得点の確率は上がる。
そしてリードされた瞬間、この守備戦術は破綻する(守っているだけでは、引き分けもおぼつかない)。
守備戦術のバリエーションが増えたのも一つだろう。後ろに引いてブロックを作るのではなく、プレッシング戦術のブームも到来した。プレッシングを前線でかけながら、ミドルゾーンで守り、できるだけ自陣ゴール前からは遠ざける。それが主流になっているわけだが…。
オーストラリアは、古典的な守備戦術「バスを置く」を引っ張り出してきた。こう言っては何だが、時代錯誤も甚だしい。サッカーを捨てた報いを受けることになるはずだが…。
戦力で上回る日本が、途中交代出場の中村敬斗の素晴らしい突破で同点に追いついたのは良かった点だろう。しかし呆気なく失点し、勝ち切れなかった点は反省の余地がある。サッカーを捨てた戦いに少しも価値がないことを、アジアで知らしめる使命があるのだ。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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