北朝鮮国旗(画像はAIで生成したイメージ)
10月31日、北朝鮮が今年に入って初めて大陸間弾道ミサイル(ICBM=火星19型)を発射した。
「この日付で発射したことには意味が込められています。北朝鮮は米・ブリンケン国務長官が30日(現地時間)にワシントンで米韓定例安保協議(SCM)を開催し、北朝鮮のロシア派兵を『声を一つにして最も強く糾弾する』と発表してから約5時間後に発射している。これは、米大統領選挙に影響を与えるとともに、北朝鮮軍のロシア派兵批判封じ込めを狙ったのでしょう」(外交関係者)
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金正恩総書記は、火星19型を「最終完結版」と表現しているが、確かに新型の固体燃料を使っていること、多弾頭化が図られていることなど最新型であることは間違いない。
「格段の技術的進展を遂げています。その背後には、ロシアの技術提供があったはず」(軍事アナリスト)
この発射を受けた米韓合同参謀本部は31日、江原道の太白射撃場で、北朝鮮の移動型及び固定型の標的を打撃するGBU-12空対地誘導爆弾を投下するF-15K戦闘機による実射撃訓練写真を公開した。北朝鮮は火星19型の発射やウクライナ派兵で“米国の尾”を踏んでしまったようだ。
さて、ウクライナ戦争で風雲急を告げる北朝鮮の派兵問題について、ブリンケン国務長官は「ロシアに派遣された1万2000人の北朝鮮兵士のうち8000人がロシア西部のクルスク州に配備された」としたうえで、「今後、数日以内にウクライナ軍との戦闘が始まる」と分析。一部では「すでに戦闘が行われた」との報道もある。
「ウクライナは3カ月ほど前にクルスクへの侵攻を開始していますが、ロシアは反撃に苦労しており、いまだにクルスクの一部を占領したウクライナ軍を国境の外に押し戻せていない。北朝鮮兵は、この最前線に投入されたとみられています」(同)
クルスク奪還が軍務か
ロシアと北朝鮮は、今年6月に包括的戦略パートナーシップ条約を締結した。その中の第4条には、「露朝いずれかが武力侵攻を受け、戦争状態に陥った場合、遅滞なく、保有するあらゆる手段で軍事的、その他の援助を提供する」と明記されている。
今回の派兵はこれに則った行動だが、ロシアはウクライナを侵略したのであり、攻撃を受けたわけではないから、厳密には北朝鮮側の兵士派遣は軍事協定外の行動と言っていい。
「韓国国家情報院によれば、ロシアに派遣されている部隊は、第11軍団(通称・暴風軍団)と呼ばれる特殊作戦部隊。この部隊は、日米の情報機関では教育訓練指導局(TUGB)と呼称されています。北朝鮮軍の中では最も精鋭とされる集団です」(軍事ライター)
暴風軍団は、3個の軽歩兵旅団、狙撃旅団、4個の空挺旅団から構成されている。軽歩兵旅団と狙撃旅団は歩兵として、空挺旅団は落下傘降下による空挺作戦やヘリボーン作戦を実施する特殊作戦部隊で、米軍のグリーンベレーやロシア軍のスペツナズと呼ばれる部隊と比較的、似た運用をされる集団だ。
「10月15日のキエフ・インディペンデント紙は、ウクライナ軍事情報局(HUR)が北朝鮮の派遣する兵士の数について、将軍3人と将校500人を含む約1万2000人と述べたと報じています。1万2000人という数字は、4000人規模の旅団が3つ。将軍3人とは3個の旅団長で、将校500人とは30人を束ねる小隊長と中隊・大隊の指揮官です」(同)
また、その任務はロシア西部の奪還だとみられている。
「暴風軍団はクルスク奪還が軍務でしょう。現在、ロシアはクルスク正面で、2個の空挺旅団と海兵旅団の合計4個旅団が攻撃している。これに北朝鮮の3個旅団が加われば、クルスク奪還の戦力となるかもしれない。ただし、北朝鮮軍はこれまで見せかけの訓練をやっている場合が多く、今回、精密誘導兵器が飛び交う戦場に投入されれば、対応できず砲弾の餌食になってしまう可能性が高い」(同)
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派兵の対価は1人2000ドル
韓国国家情報院によると、北朝鮮派兵の対価は1人当たり2000ドル(約30万円)だという。
「正恩氏は自国の若い兵士を戦場に送ることで、ロシア側から最新の軍事技術や経済的支援などを得ようとしているのです。こんなひどいことができるのは北朝鮮しかありませんよ」(北朝鮮ウオッチャー)
北朝鮮兵が前線に出て戦えば大きな危険が伴う。だが、兵士に死傷者が出ても日本や米国のように国民が憤り、政治的圧力が生まれることはまずない。
そんな哀れな北朝鮮兵を見てか、200人近い韓国在住の脱北者がウクライナ軍側で参戦しようとしている。全員が兵役経験者だ。
「捕虜として投降を希望するロシア軍兵士のためにウクライナ政府が設置しているホットラインは先日、北朝鮮軍兵士に対して『外国の地で無意味に死なないでほしい』と訴えました。脱北者軍団が実際の戦闘に参加するかは未知数ですが、心理戦の戦闘員として、拡声器による放送、ビラの配布、通訳など必要であればどこへでも行く用意があると代表者は述べています」(同)
ウクライナ戦線は、南北の“代理戦争”の様相も呈してきた。
「週刊実話」11月21日号より一部内容を変更