「クラブの価値や名誉よりも会長と一選手の妄想を優先」なぜマドリーはバロンドール授賞式をボイコットしたのか。スペイン人記者が糾弾「勝つことだけを考えている」【現地発コラム】

 レアル・マドリーはどんな魂胆でバロンドールの授賞式に出席するために予約していたパリ行きの飛行機をキャンセルしたのだろうか? 

 ヴィニシウス・ジュニオールに賞が贈られないのであれば、出席する必要はない、というのがリークされたマドリーの言い分だった。次点のヴィニシウスに加え、ジュード・ベリンガムとダニエル・カルバハルが3位、4位に入賞し、カルロ・アンチェロッティが最優秀監督賞を受賞し、チームとしても最優秀賞を獲得したにもかかわらず、である。

 主役を演じるはずだったパーティーが台無しにされたヴィニシウスの悲しみに暮れる姿は容易に想像できる。弁解の余地がないのは不正があったと主張するマドリーの姿勢だ。一体フロレンティーノ・ペレス会長は何の魂胆を持ってボイコットに踏み切ったのだろうか?

 クラブの顔の名誉を守るためだとしたら、度が過ぎた。ラ・リーガとチャンピオンズリーグの2冠を達成したマドリーの攻撃を牽引し、人種差別と先頭に立って闘ったヴィニシウスがバロンドールを受賞するに相応しい選手であることに異論はない(その抗議行動が賞を遠ざけたというヴィニシウスの匂わせ投稿、関係者の説明には同意しかねる)。
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 しかし同時に中盤をマシーンのように機能させることでマンチェスター・シティのプレミアリーグ4連覇とスペイン代表のEURO制覇の立役者になったロドリほど、サッカーというチームスポーツを体現している選手がいなかったこともまた紛れもない事実である。

 今回、白日の下に晒されたのは、マドリーが勝つことだけを考えてプレーしていることだ。しかし忘れてはならないのは、我々が日々直面しているように、スポーツの世界でも勝つこともあるし(マドリーでプレーしている限りその機会が大幅に増えるとはいえ)、負けることもあるということだ。

 そして敗北を喫した時こそ、マドリーがいつも強調している騎士道精神以上のものが問われる。どんなにクラブの誰かが壮大なストーリーをでっち上げ、自身がトロフィーを受賞することを確信していたとしても、ヴィニシウスがすべきことは頭を下げて勝者を祝福することだった。負けを知ることもまたスポーツを通して学ぶ価値の1つである。
 ペレス会長が、今年からフランスフットボールとバロンドールの共同主催者になるUEFAを挑発するためだけに、このような暴挙に出たとは考えにくい。セーヌ川がパリ市内を流れるという事実を利用して、マドリーが主導する欧州スーパーカップ構想を巡って対立する会長のアレクサンデル・チェフェリンとその取り巻き連中に恥をかかせようとでも思ったのだろうか。

 考えれば考えるほど、よく分からなくなってくる。そして最終的には、今回のボイコットもまた政治がスポーツに介入した典型例という結論に至る。マドリーは選手たちや監督よりも自分たちの利益を優先させた。もっとキツい言い方をすれば、クラブの価値や名誉よりも会長と一選手の妄想を優先させた。ヴィニシウスの肥大化したエゴを手なずけるどころか、一泡吹かせる好機と捉えた。
 
 アンチェロッティも、他のノミネート者たちも、このような扱いを受けるに値しない。さらに気の毒だったのが、ロドリだ。マドリード生まれのスペイン人である彼は、喧噪の中、栄えある賞を手にすることを余儀なくされた。

 ヴィニシウスにとっても、これから嘲笑の的になるネタが増えたことは何のプラスにもならない。幸いなことに、ロドリは自分がバロンドールに値する選手であることを知っている。そしてそれは他の誰かに拍手を送るつもりで授賞式に出席することを決めた時から、確信していたことである。

文●ナディア・トロンチョーニ(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸

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