アッズーリが敵地でベルギーに0ー1勝利。トップ下のバレッラが「それぞれ局面に“プラス1”の優位性を作り出したという意味で、先制ゴールの真の立役者」【現地発コラム】

 11月14日にブリュッセルのボードゥアン国王スタジアムで行なわれたUEFAネーションズリーグ第5節、イタリア代表は11分にサンドロ・トナーリが挙げた先制点を守り切って0ー1でベルギーに勝利した。勝点を13に伸ばしてグループ首位を守るとともに、3月に行なわれるノックアウトステージ準々決勝進出、さらには25年9月に始まるワールドカップ予選でのシード権(ポット1)を確定させた。

 この試合、CBリッカルド・カラフィオーリ、MFサムエレ・リッチを故障で欠いたルチャーノ・スパレッティ監督は、ここまでのネーションズリーグで一貫して使ってきた3ー5ー1ー1システムのセンターCBにアレッサンドロ・ブオンジョルノ、中盤の底に今回が初招集のニコロ・ロベッラを起用。さらに過去4試合は故障などで不在だったニコロ・バレッラをトップ下に置いた以下のような布陣をピッチに送り出した。

イタリア(3ー5ー1ー1)
GK:ジャンルイジ・ドンナルンマ
DF:ジョバンニ・ディ・ロレンツォ、ブオンジョルノ、アレッサンドロ・バストーニ
MF:アンドレア・カンビアーソ、ダビデ・フラッテージ、ロベッラ、トナーリ、フェデリコ・ディマルコ
トップ下:バレッラ
FW:マテオ・レテギ

 イタリア代表で中盤のリーダー格と言うべきバレッラが、ほぼ同じ3ー5ー2を採用しているインテルでは一貫して右インサイドハーフでプレーしてきたのは周知の通り。にもかかわらず、そこには従来通りフラッテージを起用し、バレッラをトップ下に置いた理由は、前日会見におけるスパレッティ監督の次のようなコメントに示されていた。
 「フラッテージはこれまでいくつかのゴールを挙げてきたが、いずれも後方から攻め上がってフィニッシュに絡んだもの。また必要に応じて中盤センターに下がって中央を固める仕事にも優れている。インサイドハーフに置いた方が生きるタイプだ。バレッラは万能なので高い位置でも自在にプレーできる」

 フラッテージはネーションズリーグ4試合で3ゴールとイタリアにとって一番の得点源であり、その持ち味を引き続き活かしたいという指揮官の考えは理解できる。一方、バレッラは中盤ならどこに置いても機能するユニバーサルなMFで、攻撃センスももちろん際立っている。

 トップ下で起用すれば、中盤で数的優位を作り出してポゼッションによるゲーム支配を支える仕事、そしてラスト30メートルでのアシストやミドルシュートでフィニッシュに絡む仕事も期待できる。

 事実、結果的に決勝点となった11分の先制ゴールは、バレッラがその2つの仕事をこなしたことによって生まれたものだった。ベルギーのビルドアップに対し、フラッテージと連携したプレスによってレアンドロ・トロサールを追い込んで右サイドの高い位置でボールを奪うと、左から駆け上がってきたディマルコに展開して最終ライン攻略の口火を切った。

 その流れでボールがもう一度右サイドに戻ってきたところで、今度は裏に走り込んだディ・ロレンツォにワンツーを返す形で絶妙なスルーパス。ディ・ロレンツォはそのまま右のポケットを深くえぐって中央に短いクロスを折り返し、そこに詰めたトナーリが無人のゴールに押し込むという流れだった。

 ボール奪取時には純粋なMFとして、そしてフィニッシュの場面ではディ・ロレンツォのアシストを演出する決定的なスルーパスを送り込むアタッカーとして、それぞれ局面に「プラス1」の優位性を作り出したという意味で、バレッラこそがこの先制ゴールの真の立役者だったと言えるだろう。

【動画】ベルギー代表vsイタリア代表のハイライト
  ベルギーのドメニコ・テデスコ監督は、ケビン・デ・ブライネ、ジェレミー・ドク、シャルル・デ・ケテラーレ、マリック・フォファナ(+招集拒否のティボー・クルトワ)を欠く苦しい陣容ということもあってか、立ち上がりは5バックの守備的な布陣で受けに回る慎重な姿勢を選んだ。しかし結果的にこの選択は、ボールを握ってゲームを支配したいイタリアを助け、勢いに乗せるというマイナスの効果しかもたらさなかった。

 イタリアは後方からのビルドアップの過程で、サイドのCB、ウイングバック、インサイドハーフが流動的にポジションを入れ替えながらパスをつなぐことでベルギーに守備の基準点を与えず、容易にフリーマンを作り出して敵陣までボールを運ぶことができていた。

 WBのカンビアーソやディマルコが中に入り込んでMFとして振る舞ったり、サイドCBのディ・ロレンツォやバストーニが敵陣まで進出して最終ラインの攻略に絡むことは、今や当たり前になっている。上で見た通り、先制ゴールの場面でも、ベルギーをペナルティーエリア手前まで押し込んだ後に、ディ・ロレンツォがバレッラとのワンツーで裏に抜け出してトナーリにアシストを送り込んでいる。

 そのままイタリアが主導権を握って進んだ試合は、30分を回ったあたりからようやくベルギーが押し返す場面が見られるようになったものの、決定機らしい決定機は作れないまま。後半はイタリアが54分、55分に訪れた大きな決定機を決め切れず、60分を回ってからは攻めるしかないベルギーが徐々に攻勢に立つ展開となった。
  しかしイタリアはCBブオンジョルノがナポリのチームメイト、CFロメル・ルカクとのデュエルで健闘。2度ほど与えた決定機も厳しい当たりでフリーでのシュートを許さず、ベルギーに最後の一線を超えさせなかった。

 逆にイタリアはカウンターから2度チャンスを得たものの、途中交代で入ったモイゼ・ケーンがいずれもシュートのタイミングを逃して決め切れず。ほぼ一方的に耐え忍ぶ展開になったラスト10分も決定機らしい決定機を許さず、1点のリードを守り切った。

 ここまでの4試合と比べて、内容的にはやや精彩を欠く部分があったものの、9月のネーションズリーグ開始時から一貫して取り組んできた「インテルモデル」の3ー5ー1ー1が、イタリアの新たなアイデンティティーとしてしっかりと根付いて来たことは確か。この試合も、何度か作り出した決定機をレテギ、ディ・ロレンツォ、ケーンらが決めていれば、終盤を耐え忍ぶ展開にはならなかったはずだ。

 これでネーションズリーグのグループフェーズは残り1試合。17日にミラノで行なわれる最終節で、2位フランスとの直接対決に3点差以上で負けない限り、グループ首位での勝ち上がりが決まる。

 3月に行なわれるノックアウトステージ準々決勝は、リーグAの4グループの首位と2位がたすき掛けで当たるドロー(11月22日に抽選会を実施)となっているため、他の3グループで首位を走るポルトガル、ドイツ、スペインという強豪との対戦を避けるためにも、1位突破は重要だ。2024年の代表最終戦でもあり、EURO2024での嫌な記憶を過去に追いやって、ポジティブに未来を見つめるうえでも、有終の美を飾りたいところである。

文●片野道郎

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