菅原由勢の衝撃。満を持して示した存在感。右ウイングバックの新たなサバイバルとバリエーション増加への期待感【日本代表】

 6万人を超えるホームの大サポーターに、試合開始直前に降り出した大雨、ボコボコで水を吸ったピッチ…。11月15日に敵地で行なわれた北中米ワールドカップ・アジア最終予選第5節のインドネシア戦は、日本代表にとって非常に難しい一戦だった。

 実際、序盤は相手の鋭いカウンターに苦しみ、あわや失点というピンチにも見舞われた。それを守護神・鈴木彩艶(パルマ)が阻止し、日本は前半のうちに相手のオウンゴールと南野拓実(モナコ)の得点で2点をリードする。

 優位な状況で後半に突入し、さらに守田英正(スポルティング)が3点目を奪取。これで勝負をほぼ決めたと思われた。

 けれども、大観衆の声援を受けたインドネシアは諦めず、闘争心を前面に押し出してきた。その反撃ムードを完全に断ち切ったのが、62分から右ウイングバックで途中出場し、69分に4点目を叩き出した菅原由勢(サウサンプトン)だ。
 
 6月からの3バック移行によって出番を失っていた男が、最終予選初出場でいきなり初ゴールを奪ったのだから、本人もチームも活気づかないはずがない。

 3バック右の橋岡大樹(ルートン)と右シャドーに入った伊東純也(S・ランス)、そして菅原の3人が絡んで右サイドを攻略。最後はドリブル突破から角度のない位置で右足を振り抜く。ニアをぶち抜く強烈なシュート。見る者の度肝を抜いたのは間違いない。菅原はマン・オブ・ザ・マッチに値するインパクトを残したと言っていいだろう。

「僕自身、運ぶなかでゴールも近くなってきたので、『シュートを打とう』と最後は自分で決心して打ちました。自分も人間なので、全部が全部、人生がうまくいくわけではないし、ああでもない、こうでもないと言い訳したくなることもある。でも、しっかり自分自身に矢印を向けて、常に考えるべきだと思っていました」と、菅原は苦しい時期もとにかく前を向いて懸命に取り組んできたと明かす。

 今回の試合会場となったゲロラ・ブン・カルノ・スタジアムは、ゲンの良い場所でもある。2018年10月のU-19アジア選手権の準々決勝で、インドネシアを2-0でくだしてU-20W杯の切符を掴んだ。当時の菅原は先発フル出場。6年前に世界行きを決めたスタジアムで、森保ジャパンでのリスタートを切ることになるとは。いずれにしても、菅原はようやく2026年W杯への力強い一歩を踏み出したのだ。

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 プレー時間は30分余りだったが、右ウイングバックとしての推進力は特筆すべきものがあった。菅原はもともと右SBが本職ということで「守備的な右ウイングバック」と位置づけられがちだった。

 最終予選では相手を押し込む時間が長いことから、森保一監督も堂安律(フライブルク)と伊東を重用。「菅原が試合に出ようと思うなら、3バック右を含めた万能性を磨くしかない」といった見方もされがちだった。

 しかしながら、この日の一挙手一投足を見る限りだと、突破力や推進力は2人に見劣りしないものがあったし、シュートのパンチ力はむしろ菅原の方が優っていた。それは今夏に赴いた新天地サウサンプトンでコンスタントにリーグ戦に出ている蓄積によるところが大なのだろう。

 加えて言うと、シャドーに回った伊東との共存にも手応えを感じさせた。得点シーンも菅原が右の大外に開いた伊東にいったんボールを預けてインナーラップ。自ら中央を切り裂いてフィニッシュに持ち込む形だった。

 それを見ても分かる通り、伊東と臨機応変にポジションを入れ替えながら攻撃を組み立てていく力が菅原にはある。それは堂安とプレーしても十分可能なはず。同じ右ウイングバックを競う構図だった3人が活かし合うという理想形を垣間見せたことは、何よりも大きな収穫だったと言えるのではないか。
 
 森保監督にしてみれば、10月のオーストラリア戦で左の三笘薫(ブライトン)と中村敬斗(S・ランス)の“ドリブラー+ドリブラー”の相乗効果を引き出したことが、1つのヒントになったのかもしれない。

 右も堂安と伊東、菅原を共存させられれば、今後の大きな力になるし、戦い方のバリエーションも広がる。その布石を打てたことで、菅原はこの先、ベンチに塩漬け状態になる可能性は低くなるはず。むしろ、彼がスタメンを奪うチャンスも広がってきたという見方をしてもいいのではないか。

「スタメン、スタメンじゃない選手は、試合だったり練習で監督にアピールするのが一番大事。そのうえで監督が決断することなので、僕たちは出た試合で自分の存在価値を示すだけだと思います」と菅原は慎重なスタンスを崩さなかったが、プレミアリーグでレギュラーを張っている選手が試合に出ないのは、あまりにもったいない。ここから彼自身が異なる展開に仕向けていくべきなのだ。

 さしあたって19日の次戦・中国戦が中3日で控えている。試合間隔が短い分、次は右ウイングバックのスタメン変更も大いに考えられる。果たしてそこで菅原がどう扱われるのか。まずは動向を注視していきたいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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