ダニエル太郎が、この男子テニス国際大会「兵庫ノアチャレンジャー」(11月11日~17日/兵庫・ブルボンビーンズドーム/ハードコート/CH100)でベスト4以上に勝ち進むのは、9年ぶりのことである。
2015年――当時22歳のダニエルは、世界の119位で兵庫入り。初戦で吉備雄也に勝利し、その後もトップ100経験者のベテランたちを退ける。決勝ではジョン・ミルマンに敗れたが、トップ100入りへの大きな足掛かりとした。
それから9年が経ち、31歳となったダニエルが今大会の準々決勝で当たったのは、内山靖崇。生まれ年では内山が1年早いが、“学年”的には同期。「小学校の頃から知る」仲であり、幾度も練習をともにしてきた盟友的存在だ。
ダニエルは内山を、「爆発力のある選手」であり、「良い時はポジションを上げ、どんどん前に出てボレーもしてくる」と警戒する。ただ今回の対戦では、内山が前に出てくる機会は、ほとんどなかった。その要因はダニエル曰く、この日のコンディションにもあったという。
「今日は結構湿気があったので、ボールがいつもよりフサフサして遅いコンディションだった。ネットに行くのが難しいなかで、内山くんもしっかり後ろから打つことを重視したと思う」
その状況を把握し、相手の心理も見極め、そして自分のやるべきプレーをはじき出す。
「高く打つとか、低いボールを使ったり。ちゃんと目的があるショットじゃないと、すぐ叩かれてしまう。相手に何をやらせるためのショットかという工夫が、けっこう大事。特に、ボールがそんなに飛ばない環境だと、それがやりやすいところもある」
この日の内山は前に出るのを躊躇しているようにも見えたが、それはコートやボールのコンディションと、ダニエルの策にあった。ダニエルの圧勝にも見える6-3,6-4のスコアの打ち分けは、ダニエル曰く「本当に少しのところで、流れが変わった可能性があった」という接戦でもあった。
今季のダニエルは、1月時点でキャリア最高位の58位に達し、ATPツアーを主戦場に戦ってきた。ただ高いレベルに身を置けば、当然ながら大会序盤での敗戦も増える。シーズン終盤に来てランキングも落ちた中で、来季の100位以内を確定させるべくチャレンジャーにも出場した。すると3週間前の台湾チャレンジャーでは優勝し、翌週のソウルでは準優勝。来年1月の全豪オープンは確実にした上で、さらなる上乗せを狙っているのが現状だ。
それらの戦いを重ねた中で、ツアーとチャレンジャーの違いはあると感じるか――?
その問いにダニエルは、「あるし、ないし……って感じ」と答える。ここ数年、200位台の選手もレベルが上がったということは、ケガから復帰した錦織圭も述懐していた。そのような現状も踏まえた上で、ダニエルはこう語る。
「今は対面でプレーするだけなら、結構、誰でも上の選手に勝てる感じ。ただそこから作戦を考えたり、状況にアダプトできるかや、柔軟性を保ちながら色んなことを考えプレーできるかというのが、トップの人が優れている点」
テニスが、文字通り世界中を旅(=ツアー)しながら年間20~30大会を戦うシステムである以上、重要なのは1試合の“点”ではなく、それらをつなげて描く線。
その真理を悟ったうえで、この地位に約10年間居続けてきた自分自身を、彼はどう捉えているだろうか? ダニエルが答える。
「初めてこの大会の決勝まで来て、初めてトップ100に入った時と今の自分は、全然違うなって思う。あの時に対戦した選手たちや当時のドローを見ても、ウッチー(内山)を除いたら今は引退した選手がほとんど。そういう意味では、色んな選手とやりながら、向上心を持ち続けていることが、まだランキングを上げられたり、この100位前後に居られることに繋がっていると思う。
今年や去年は、上がってくる若手にビビったし、『こいつ、来年は絶対にトップ50くらいに居るだろう』と思ったりしたが、そういう選手も、意外にまだ200位を越せていなかったりする。そういう人が多くいるなかで、自分はチャレンジャーに出たときは、勝てる試合で勝てるようになってきている」
「成長し続ける姿勢が、自分で自分を尊敬できるところかな」――。照れ臭そうにそう笑う彼に、「10年前の自分と対戦したら、勝つ自信ありですか?」と問うてみる。
「100パー(%)です」
間髪入れず、ダニエルが言った。その確信を胸に、ラストスパートを駆ける足に力を込める。
取材・文●内田暁
【画像】2024全仏オープンを戦ったダニエル太郎ほか男子日本人選手たち
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