混迷する現代社会の映し鏡としても見応えある『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』など週末観るならこの3本!


週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、『グラディエーター』24年ぶりの続編、極秘文書を巡るサスペンス、映像監督&写真家の奥山由之が監督を務めるオムニバス長編の、監督の手腕が光る3本。

■リブートとして単体でも楽しめる…『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(公開中)


【写真を見る】本作の主人公は前作の主人公マキシマスの息子ルシアス(『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』) / [c]2024 PARAMOUNT PICTURES.
1979年、『エイリアン』での“世界デビュー”から45年にわたって第一線で活躍しているリドリー・スコット。その最新作は、オスカーに輝いた自身の代表作の後日談だ。ローマ帝国との戦争に破れ奴隷となったルシアス(ポール・メスカル)は、奴隷商人マクリヌス(デンゼル・ワシントン)に買われ剣闘士=グラディエーターとして新たな一歩を踏み出した。本作の主人公は、前作から引き続きヒロインを演じたルッシラ(コニー・ニールセン)の息子ルシアス。映画の構成はほぼ前作を踏襲しており、奴隷に身をやつした気高き戦士が運命に翻弄されながら悲願を成就する姿が描かれる。

人物相関など続編として数々の仕掛けがある一方、リブートとして単体でも楽しめる構成だ。スサプライズ満載のコロシアムでの死闘、緻密さを増した古代ローマの景観など圧巻のビジュアルは映像派スコットの面目躍如。80代半ばを超え、なお進化を続けるバイタリティには驚くばかりだ。史実を交えたドラマ面も大きく進化し、他国への侵攻や政治の腐敗、謀略、クーデターなど幾重にもレイヤーを配した物語を展開する。アクション・エンタテインメントとして一級であるだけでなく、混迷する現代社会の映し鏡としても見応えある作品に仕上がった。(映画ライター・神武団四郎)

■韓国映画らしいパワフルで遠慮のない面白さに満ちている…『対外秘』(公開中)


1990年代の釜山を舞台に、壮絶な権力闘争を描く『対外秘』 / [c] 2023 PLUS M ENTERTAINMENT AND TWIN FILM/B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.
選挙直前に党公認をドタキャンされた地方政治家がブチキレ、暴力団のボスと結託!ある「対外秘」文書=極秘書類を武器に無所属出馬を決意し、自分を見捨てた大物有力者を相手に仁義なき不正選挙バトルを繰り広げる!こう書くと日本で先日行われた総選挙のドキュメンタリーみたいだが、実は1992年の釜山を舞台にした韓国映画。ヤクザと刑事の共闘を活写した『悪人伝』(19)のイ・ウォンテ監督が、再び意外なタッグマッチを通して「権力にとり憑かれる人間の悲しき習性」を赤裸々に描いたクライム&ポリティカルスリラーの快作だ。特定の個人や政党はモデルにしていないそうだが、1992年と言えば韓国大統領選が行われた年であり、釜山の大々的な都市開発が幕を開ける前夜の時代。そんな劇的かつ絶妙な舞台設定で展開する、政治家&アウトローVS影の顔役による三つ巴の死闘は、まさに韓国映画らしいパワフルで遠慮のない面白さに満ちている。

出世欲と復讐心をスパークさせるあまり、己の信念も政治方針も見失っていく庶民派政治家をチョ・ジヌンが力演。愛されキャラも怜悧なサイコパスも巧みに演じる彼だからこそ、そのスリリングな変節ドラマから目が離せない。そして『悪人伝』に続く登板となるキム・ムヨルが野心家のビジネスヤクザに扮し、『犯罪都市 PUNISHMENT』(24)の強烈な悪役とはまた異なる魅力を振りまいている。劇中、不気味なリアリティをもって描かれる不正テクニックの数々も見どころだが、だからといって選挙システム自体に絶望してはいけない。政治が醜い権力闘争や利権競争に終始しないよう、我々国民こそが注視し、声を上げていかなければならないと
決意を新たにさせる力作でもある。(ライター・岡本敦史)

■奥山監督の人柄も含めた底知れぬ才能を感じる…『アット・ザ・ベンチ』(公開中)


小さなベンチを舞台に、人々の日常を切り取った『アット・ザ・ベンチ』 / [c]2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
映像監督、写真家として国内外から注目されている、奥山由之監督が自主制作で手がけたオムニバス映画。川沿いにある古びたベンチ。変わりゆく東京の街並みから忘れ去られたような不思議な場所に訪れるのは、友だち以上恋人未満の幼なじみの男女、別れ話をするカップルと話に割り込むおじさん、家出をした姉と追いかけてきた妹、ベンチの撤去を計画する役所の職員たち。力の抜けた内容ながら、集まったキャストの豪華さに誰も捨ておけない奥山監督の人柄も含めた底知れぬ才能を感じる。

いつになくリラックスした広瀬すずと楽しそうな仲野太賀。蓮見翔の愉快な脚本をコントのようにテンポよく繰り広げる岸井ゆきの、岡山天音、荒川良々。凄まじくぶつかり合う今田美桜と森七菜。奥山監督が脚本も務めた草なぎ剛、吉岡里帆、神木隆之介の不思議なコラボ。俳優たちのここでしか観られない至極の表情にほくそ笑みながら、奥山監督が残したかった風景をベンチで日向ぼっこするような気持ちで構えず、見つめていたい全4編。(映画ライター・高山亜紀)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

※草なぎ剛の「なぎ」は弓へんに前の旧字体、その下に刀が正式表記