男性学から考える「ジェンダー平等」の意義

1人の問題意識も、多くの人に共有されれば「世論」に変わる

――私たち一人一人がジェンダー平等を実現するためにできるアクションには、どういったことがありますか?

多賀:ジェンダー問題は、とかく男女の個人的な関係や価値観の話として語られがちなのですが、社会の仕組みの面から理解することも重要です。

先ほど、男性稼ぎ手の社会をつくる磁場のお話をしましたが、私たちの生活は、社会にある法律や経済の在り方、労働条件などによって大きく規制されています。

例えば、パートの妻と正規雇用の夫のカップルがいて、パートの時給よりも正規雇用の残業代の方が高ければ、夫婦が同じくらい働いて家事を分担するよりも、夫が長時間働いて妻が家事をする方が経済的に合理的な選択になる。でも、夫も本当は残業したくなくて、妻はもっと働きたいと思っていたら、これはどちらにとっても心理的には不本意な選択なんですよね。

ですから、男女それぞれが抱える問題の原因となっている社会の仕組みを理解し、それを一緒に改善していくためにはどうすればよいかといった発想ができれば、男女間の残念な対立はもっと緩和されるのではないかと思います。

――制度を変えるのは、すごくエネルギーが要るのではないか、という印象を受けます。

多賀:もちろん、たった1人の意識次第で変えられるようなものではありませんが、個人も全くの無力ではありません。今は誰でもSNSで情報発信できる時代ですし、オンラインで署名を集めたりもできます。

まずは一人一人が抱えている悩みやモヤモヤを言葉で表現して、同じ立場の人たちとそうした思いを分かち合う。他方で、自分たちに都合のいい解釈だけを肥大化させないように、異なる立場の人たちの声にもしっかり耳を傾ける。

そうやって見つけ出した問題の共通の根っこが多くの人に理解されていけば、それが世論になっていき、政治にも反映されて制度の改善につながっていくのではないでしょうか。

編集後記

日本におけるジェンダー問題は、人の働き方や暮らし方が多様化しているにもかかわらず、いまだ戦後の経済成長を後押しした社会システムが根強く残っている、そのギャップが多くの女性だけでなく男性も苦しめているのだと、多賀教授の話から分かりました。

またこれからの日本社会を牽引する若者に多くのしわ寄せがきていることも、重大な問題であると感じました。

異性間でいがみ合うのではなく、日本の現状を俯瞰しながら互いの意見に耳を傾け、何が問題で何を解決する必要があるのか、共有し合うことが重要なことではないかと思います。

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〈プロフィール〉

多賀太(たが・ふとし)

関西大学文学部教授。1991年九州大学教育学部卒、1996年同大学院博士課程教育学研究科単位取得満期退学。1999年に「男性のジェンダー形成に関する研究」で九州大学から博士(教育学)取得。久留米大学文学部助教授、関西大学文学部准教授などを経て、2009年から現職に。日本家族社会学会・日本子ども社会学会理事、一般社団法人ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン代表理事、NPO法人デートDV防止全国ネットワーク理事、公益財団法人日本女性学習財団評議員、奈良県・京都市男女共同参画審議会委員などを務める。専門は、教育社会学、ジェンダー学、男性学。『ジェンダーで読み解く男性の働き方・暮らし方: ワーク・ライフ・バランスと持続可能な社会の発展のために』(時事通信社)『男らしさの社会学: 揺らぐ男のライフコース (世界思想ゼミナール)』など著書多数。※役職等は2024年3月時点