害虫対策に効果的なことは、害虫を駆除しないこと

衝撃的な発言かもしれませんが、害虫対策に効果的なことは害虫を駆除しないことなのです。

なぜかというと、生き物は互いに依存し合い、相互作用で成り立っているからです。

捕食者は、害虫と呼ばれる非捕食者がいなければ生きていくことはできません。決して人間に都合よく、捕食者だけが増えることはないのです。

このことを念頭に行動すれば、害虫を徹底的に駆除しようと思わなくなります。

理想論できれいごとのように聞こえるかもしれませんが、実際に私の庭や畑では、無農薬栽培でも驚くほど害虫の被害を抑えることができています。害虫が全くいなくなることはありませんが、逆に大きな被害もほとんどありません。

例えば、農業の世界でも深刻な問題となっているのが、病害虫の薬剤耐性です。病害虫を駆除するために薬剤を散布し続けた結果、薬剤が効かない耐性病害虫が増えています。除草剤を使用する雑草においても、同じ現象が起きています。

ここで問題なのが、人間の都合に合わせて病害虫だけを選択的に駆除することはできず、有益な生き物たちも駆除してしまうこと。そして、食物連鎖のピラミッドを見ても分かるとおり、上位の生き物ほど数が少なく、再生に時間がかかることです。

世界で環境に優しい栽培方法が見直されていますが、そもそも自然は最も調和がとれていて共存共栄していく素晴らしいシステムができていると感じています。自然ですから、目の前の問題に対して即効性のある解決効果はありませんし、問題がゼロになることもありません。しかし、私たちが感じている問題も、じつは大きな循環の中では必要な必然であり、その問題が起きた原因となる根本には何があるのか感じることが重要なのです。駆除や排除は対処療法であり、根本療法ではないので、根本を変えない限りまた同じことが繰り返されることになります。

ここで忘れてはいけないことは、地植えと鉢植え、庭と室内では条件が全く違うこと。自然が豊かな環境であれば、自然の循環の中で問題解決がされていきますが、自然が少ない人工的な環境では、人間がサポートする必要があります。

そして、人間もまた自然の一部。目の前の植物や環境と向き合い、必要だと感じたらサポートしてあげてください。

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人にも地球にも優しいガーデニングを目指して

私が長年に渡りバラの無農薬栽培を実践して感じたことは、自然界の中では害虫という存在はいないということです。

害虫という言葉は人間が作り出したもので、自然界には全ての生命に役目があり、無駄な生命は一つもないと実感しています。人間にとっては観賞するための花を食べる虫は厄介者ですが、植物にとっては受粉を助ける大切なパートナーで、植物自身が呼び寄せていることもあります。

これは私の見解ですが、植物は動けないからこそ虫の力を借りて助けてもらっている、と考えています。

例え、人間目線で見ると葉を食べる害虫に見えたとしても、それは不要な葉を減らすために食べてもらって葉からの蒸散量を調整していたり、花が多すぎると実が小さくなってしまうので虫が花の咲く量を調整していたりする…その姿が、農家が行っている葉かきや摘花と全く同じだということに気が付いた時には驚きました。菜の花はモンシロチョウの幼虫に葉を食べられますが、菜の花の受粉を助けるのもまた、成長したモンシロチョウなのです。それは、植物自身が自分で餌を与え、モンシロチョウを育てているとしか思えません。 地球の歴史を振り返ると、人間が生まれる遙か昔、1億4000万年以上前から植物と昆虫は共進化を遂げてきた仲間です。地球や自然の営みから見れば、私たちの人間目線はとても小さな考えで、もっと物事を俯瞰して見ることの大切さや自然を思いやる心、自然に生かされていることの大切さに改めて気付かされます。

ガーデニングは自然と繋がるとても素敵な行為です。自然と一体となる共同作業を通して大切なことを学び、心豊かになります。

これから先の未来が持続可能な世界であるためにも、人も自然も健康になる地球に優しいガーデニングが少しでも広がることを願っています。

Credit

文&写真(クレジット記載以外) / 持田和樹



アグロエコロジー研究家。アグロエコロジーとは生態系と調和を保ちながら作物を育てる方法で、広く環境や生物多様性の保全、食文化の継承などさまざまな取り組みを含む。自身のバラの庭と福祉事業所での食用バラ栽培でアグロエコロジーを実践、研究を深めている。国連生物多様性の10年日本委員会が主宰する「生物多様性アクション大賞2019」の審査委員賞を受賞。

https://www.instagram.com/rose_gardens_nausicaa/?igsh=MW53NWNrZDRtYmYzeA%3D%3D