エデュアルド・チャドウィック氏率いる「ヴィネドス・ファミリア・チャドウィック」のツートップともいえる『ヴィニェド・チャドウィック』と『セーニャ』。ヴィニェド・チャドウィックが独力でユニークなテロワールを掘り下げたワインなのに対し、今年30回目のヴィンテージを迎えたセーニャは、チャドウィック氏とロバート・モンダヴィ氏(カリフォルニア州)のジョイントヴェンチャーによって生まれたワインだ。南北アメリカの象徴的なアイコンワインを造ろうと、四半世紀をかけて現在地点にたどり着いた。
 『オーパスワン』を成功させたモンダヴィ氏が、次はチリで新たな夢に向けて走り出そうとした。その後2004年、「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」が「コンステレーション・ブランズ」に売却されたことで2人のコラボレーションは終わったが、チャドウィック氏はセーニャの経営権を取得して独力で走り始めた。両者の関係解消と(*1)「ベルリン・テイスティング」は同じ04年の出来事だった。セーニャのデビューヴィンテージは1995年。そこから10年足らずで世界的な評価を受けたわけだが、セーニャは新たなステージからさらに進化した。

エデュアルド・チャドウィック氏

 セーニャはカベルネ・ソーヴィニヨンが太い幹となり、カルメネールとマルベックがブレンドされているが、そのブレンドは時代とともに変化してきた。栽培は(*2)バイオダイナミックに向かい、熟成の樽も新樽比率の高いバリック(小樽)だけでなく、フードル(大樽)も加えてきた。説明すると単純なように響くが、こうした努力はほぼゼロから始まっている。いばらの道だった。

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 チリは(*3)フィロキセラの害がなかったため、最初の植栽コストは低かった。とはいえ、台木だけでなくクローンもなく、ブドウ樹はウイルスにかかっていた。20年かけて土壌と気候に適した良質の苗木に植え替えた。2005年からバイオダイナミックを導入。適度な灌漑(かんがい)を行い、少し早めの収獲で酸味を保っている。こうしたフォーミュラ(方法)を開発するのは一朝一夕では不可能だ。そんな歴史を意識しながら試飲すると、深みが伝わってくる。

バイオダイナミックを導入する畑に撒く調合剤(プレパレーション)

 2022年の『セーニャ』はカベルネ・ソーヴィニヨン60%、マルベック25%、カルメネール9%、プティ・ヴェルド6%という品種構成。ブラックラズベリー、レッドチェリー、プラム、リッチで鮮やかな酸味、ヴェルベッティなテクスチャー。しなやかなタンニン、黒鉛、葉巻、緻密な構造、深みがある。干ばつの年だが、バランスが取れていてエレガント。
 セカンドワインの『ロカス・デ・セーニャ 2022年』はマルベック33%、シラー25%、カベルネ・ソーヴィニヨン21%、プティ・ヴェルド9%、ムールヴェードル7%、グルナッシュ5%という品種構成。ラベンダー、レッドチェリー、スギ、ガリーグ、さわやかでジューシーなタンニン。砕いた石、スモーク、スパイシー。控えめで、さわやかな酸、地中海性気候のみずみずしい表現が広がる。
 試飲するたびに発見のあるワインだ。

『セーニャ 2022年』
Seña
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン60%、マルベック25%、カルメネール9%、プティ・ヴェルド6%
オープン価格

(*1)2004年に開催されたブラインド・テイスティング。フランス、イタリア、チリのプレミアムワインを含めた16種類が競われた。1位は『ヴィニェド・チャドウィック 2000年』、2位は『セーニャ 2001年』となり、チリワインが圧勝した
(*2)オーストリアの人智学者、ルドルフ・シュタイナー(1861~1925年)が提唱した有機栽培農法。太陰暦に従い、宇宙のリズム、天体の運行に合わせて農作業を行う
(*3)ブドウ根アブラムシ。植物の根や葉から樹液を吸い、枯らせる害虫。1800年代後半にアメリカから流入し、ヨーロッパのブドウ栽培に壊滅的な打撃を与えた

問い合わせ先:セーニャ
https://www.sena.cl/

text by Akihiko YAMAMOTO