「夫がいるから大丈夫」は危険、遺族年金は当てにできない

――しかし、自分の年金が少なくても、夫の年金があるから何とかなるだろうと考えている女性が多いのではないでしょうか。

坊美生子さん ご自身や夫が自営業という方は、国民年金しか加入していないので、「老後もらえる年金は少ない」という危機感を持って、若い時から貯蓄に努めたり、個人年金に加入したりしているかもしれません。また独身の女性も、ほかに稼ぎ手がいないため、意識的に貯蓄や投資をしているかもしれません。

それに比べ、夫が厚生年金に加入している専業主婦の方は、「老後も夫の厚生年金があるから大丈夫」と間違った安心感を抱いて、備えが不足している可能性があります。これまで国が公表してきた「モデル世帯」の受給見通しは、一定の生活ができる水準に達していたからです。

しかし、女性のほうが男性より平均寿命が長いため、人生の終盤で夫と死別してシングルになる女性が多いです。実際に、現在の年金受給者の配偶関係をみると、女性の半数近くがシングルなのです。「モデル世帯」にあてはまる専業主婦の女性は、世帯の受給額を、終身で受給できるような感覚に陥り、死別後の暮らしのイメージがわいていないケースが多いのではないでしょうか。

――遺族年金があると安心している人も多いです。

坊美生子さん 遺族年金は、夫の年金額から基礎年金を差し引いた残りの4分の3の額。2022年度のデータで遺族年金の月額は、自分の基礎年金を含めて10万円未満の人が約65%もいて、水準が低いです。夫が大企業に勤めていたというような富裕層で、年金額が相当高い場合を除き、残された妻が遺族年金だけで生活していくのは厳しいのが実情です。

また、「専業主婦で熟年離婚をしても、年金分割すれば何とかなる」と考える人もいるかもしれませんが、2022年度の離婚件数約18万件のうち、年金分割が行われたのは約3万件にすぎません。年金分割することを前提に、離婚後の年金受給額を試算するのは現実的ではありません。

ようするに、この世代でシングルの女性は、独身にせよ、死別や離別にせよ、低年金になるリスクが高いと言えます。専業主婦の方は、夫亡き後の年金額を想定して、今から準備する必要があります。

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結婚・出産・育児を経ても、スキルアップ・キャリアアップに励んでほしい

――「おひとりさま」という言葉がブームのようになっていますが、現実は厳しいということですね。

坊美生子さん 今回の「財政検証」が明らかにしたのは、「女性は、こんなにも低年金の人が多い!」という事実です。

シングルになれば、貧困リスクに直面します。人生には「上り坂」「下り坂」、そして「まさか」があると言われますが、結婚しているから大丈夫と思っても、いつかは夫との死別がある。まさかの離婚もある。もちろん、最初から結婚しないという選択肢もある。

自分もいつかはシングルになるかもしれない。いつか大変になるかもしれない。そう思って「まさか」に備えて、女性自身の賃金アップと年金アップをはかりましょう。それが、自分の身を守る最も確かな道です。

――それでも男女格差が大きい40代以上の女性に比べ、若い女性の年金受給額は上昇するとリポートで指摘しています。若い女性に対するアドバイスをお願いします。

坊美生子さん 中高年よりも改善するとは言え、20歳女性の平均11万6000円、30歳女性の平均10万7000円という年金額は、決して高くありません。「月10万円未満」の低年金の層も、20歳女性で4割弱、30歳女性で4割強います。

男女格差も、厳然と残っています。【図表1】と【図表2】を見比べると分かりますが、「月15万円以上」もらえる人の割合も、男性の20歳と30歳では過半数に上りますが、女性の20歳と30歳では1~2割しかいません。つまり、女性では、今の20~30歳代でも、高年収で働き続ける人が少ないと試算されているのです。

学校を卒業して入社するまでは、男子も女子も同じだったのに、悔しくないですか? 男性と同じ初任給、同じ研修を受けながら、将来の年金にこれだけ違いがあるなんてショックですよね。40代、50代女性に述べたことの繰り返しになりますが、今の若い女性には、ライフステージを経ても、ずっと働き続けてスキルアップ、キャリアアップに励んでほしい。管理職にも進んで、自分自身の賃金水準と年金水準を上げてほしいです。

女性の場合、結婚、出産、育児を経ると、生活環境が大きく変化します。仕事への制約も大きくなるので、目の前のライフステージを乗り越えるのに必死で、いくつも先のライフステージである老後のことなどなかなか考えられないかもしれません。でも、女性自身の身を守るために、こういう老後保障に関する情報を、しっかり頭の片隅に入れておいてほしいです。