「大人女子」のロールモデルとなった、小泉今日子さん

『小泉今日子と岡崎京子』を通じて、あらためて実感させられるのは、小泉さんが30代以降の女性のロールモデルとして、「大人女子」の代表としての役割を引き受けてきたということ。その皮切りとなったのが、「30代女子」をコンセプトにした宝島社のファッション誌で、2003年創刊の『InRed』。同誌が打ち出したのは、30代になったとしても他者に媚びることなく、自分の好きな服を着て、好きなように生きようとする、「30代女子」のあり方です。
かつての30代女性といえば、結婚や出産を経て、いい妻・いい母親として生きていく……という姿がスタンダードなものでした。そうした女性像とは異なる、未婚、既婚、専業主婦、キャリア、母親……といった肩書きにとらわれない新たな30代女性の姿を示した同誌は、多くの同世代の支持を得ることになります。このイメージモデルをつとめたのが、小泉さんでした。

そこから7年が経ち、「30代女子」が不惑を迎える頃に誕生したのが、「40代女子」をターゲットにした、同じく宝島社のファッション誌『GLOW』。その創刊号の表紙をYOUさんとともに飾ったのも、40代を迎えていた小泉さんでした。もちろん、40代女性を読者層とする雑誌はすでにありましたが、その多くは、既婚者や子育て中の女性を対象としたもの。子どもの有無にかかわらず、自分の人生を歩みたいと考える女性が増えた時代において、「いくつになっても、自分らしく生きていい」と女性たちを鼓舞する存在として、小泉さんはぴったりだったといえるでしょう。

そして、『大人のおしゃれ手帖』をはじめ、50代以降の女性のためのファッション誌も登場してきた現在。かつての50代女性とは異なり、若い頃からファッション誌に親しみ、おしゃれが好きでトレンドにも敏感な人が増えたことが、その背景にあります。

本書でも繰り返し述べられているように、小泉さんは、女性が年を重ねることをポジティブに捉え、自由な生き方を提唱してきた、“大人女子の水先案内人”と言える存在。独立してみずから事務所を立ち上げたり、プロデューサーとして作品を手がけたり……と、50代以降も新たなチャレンジをし続けている小泉さんだけに、今後も新しい女性の生き方を率先して示し、私たちを勇気づけてくれるのでしょう。

(広告の後にも続きます)

「言葉の強さ」で多くの人を引きつけた、岡崎作品

ここで再び、岡崎さんのキャリアとその作品に焦点をあててみたいと思います。同時期にデビューしていた桜沢エリカさんや内田春菊さんらとともに、1980~90年代を代表するマンガ家として活躍していた岡崎京子さん。1996年に不慮の事故によって休筆を余儀なくされた後も、未収録作品が単行本化されたり、『ヘルタースケルター』『リバーズ・エッジ』『ジオラマボーイ★パノラマガール』といった作品が映画化され、新たな若い読者も獲得しています。2015年には東京・世田谷文学館で初めての大規模な展覧会が開催され、同館の開設以来の2万3000人を超える来場者を記録したそう。そのことからも、今もなお、多くの人に愛されていることがうかがえます。

なぜ、20年以上も前に描かれた作品が、多くの人の心を捉え続けているのでしょうか。岡崎作品の特徴のひとつが、固有名詞をふんだんに用いることで、その時代の空気感をリアルに映し出していること。文学やマンガ、音楽、映画といった作品の膨大なオマージュも印象的です。代表作の『リバーズ・エッジ』には、アメリカのSF作家、ウィリアム・ギブソンの詩から「平坦な戦場で僕らが生き延びること」という一節が挿入されています。

加えて、洗練された作画や登場人物たちが着こなすファッションも、同世代の読者を引きつけました。そうした時代性と同時に、女性たちの連帯=シスターフッドのような、普遍的なメッセージが含まれているのも特徴的です。そして岡崎作品といえば、何よりも言葉の強さ。どの作品にも、心をえぐるような印象的なフレーズがあり、読んだ後も読み手の心に長く残り続けているのが、最大の魅力と言えるのではないでしょうか。

岡崎さんの代表作として真っ先に挙げられるのが、“愛と資本主義をめぐる冒険と日常の物語”を描いた『pink』、そしてバブル崩壊後の空虚な空気感が漂う『リバーズ・エッジ』ですが、もちろんそれ以外の作品も、今も色あせない名作ばかり。その中から、あらためて読み返したい、いくつかの岡崎作品を紹介したいと思います。