ZEH住宅は普及する?今後の見通しをお聞きしました
ZEH住宅の普及は今後進んでいくのでしょうか。今後の見通しをお聞きしました。
住宅政策の影響でZEH住宅は増えると予想
ー今後、ZEH住宅の普及は進みますか?
はい。住宅政策がZEH住宅普及に向けて動いているため、普及の流れは変わらないと思います。
使えない太陽光パネルが増える?ZEH住宅の普及で危惧される未来
ーZEH住宅の普及で、大きな省エネルギー効果が期待されますね!
そうですね。省エネ効果が期待される一方で、私が危惧しているのは将来的に使えない太陽光パネルが増えることです。日本政府はこれから建てる家をほぼすべてZEH住宅にしようと政策を進めており、今後どんどん太陽光パネルの設置率が上がっていきます。設置する際は補助金などでまかなえるため金銭的負担は軽い一方、30年間にメンテナンスや撤去・再搭載をする際にかかる金額は設置時以上とすれば、家の修繕費と合わせて一体どれだけの方が太陽光パネルの継続維持費用を払えるのでしょうか。
太陽光パネルの設置コストを下げたりメンテナンスの補助金を出すなどの策を講じなければ、メンテナンスされずに使われなくなった太陽光パネルが増えていくでしょう。
高断熱・高気密・低防湿の落とし穴
ーほかにZEH住宅の普及で危惧されている点はありますか?
断熱基準が義務化される一方、防湿(気密)についての基準が設けられていないことです。断熱性能のみ高めてしまうと、高断熱・高気密・低防湿の住宅になります。日本の家は木造住宅が多いため、壁の中に水蒸気が入ると家がすぐに傷んでしまうのです。
断熱性能をあげたのに防湿性能が低いために引き起こされた事例として、「ナミダタケ事件」が挙げられます。
ーナミダタケ事件とは?
1980年代に北海道や東北地方で起こった一連の事件のことです。当時北海道発の高断熱住宅が登場し、断熱性能に特化した家づくりが積極的に進められました。防湿対策をせずに高断熱の住宅を数10棟建てた結果、木材を腐らせる「ナミダタケ」と呼ばれるキノコが大量に発生し、新築の床がわずか数年ほどで抜けるようになったのです。
ー怖い事件ですね…!
当時かなり話題になったナミダタケ事件も今では風化してしまいました。防湿対策を講じないZEH住宅が増えることで、この事件と同じような現象が起こるのではないかと危惧しています。
充填(じゅうてん)断熱と外張り断熱
ー断熱工法によって低防湿の影響は変わってくるのでしょうか?
はい。充填断熱と外張り断熱を両方行う工法の場合、防湿対策をしていないとより家が傷みやすくなります。
ー充填断熱と外張り断熱とは?
充填断熱とは壁の中に断熱材を入れることで、外張り断熱とは家の梁や柱などの外側から全体を覆うように断熱することを指します。断熱性能を上げるために充填断熱と外張り断熱を組み合わせる工法は、家が傷みやすくなるため注意しましょう。
ーなぜ家が傷みやすくなるのでしょうか?
一般的に、防湿対策として壁の内側ほど防湿し、壁の外側に行くほど透湿するような壁構造にする必要があるといわれています。壁の中で発生した水蒸気を溜め込まず、外へ揮発(きはつ)させるためです。
充填断熱と外張り断熱を同時に行うと、壁の外側の透湿抵抗が高くなり水蒸気の通り道を封じ込める状態になるため、壁の中で結露(壁体内結露)しやすい構造になってしまうのです。
ーZEH住宅の普及に伴い、今後は防湿の基準も設ける必要がありますね
そうですね。防湿対策をしないと、断熱性能が優れていても夏は暑くて冬は寒い家になってしまうんです。
日本の断熱は海外と比べて後れを取っているため、まだ多くの人に理解されにくい業界だと思います。今後、防湿についても理解が深まることを願っています。
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今後住宅業界が求められるもの
ZEH住宅に欠かせない断熱性能を正しく理解することが、長くもたせる家をつくる第一歩となります。今後日本の住宅業界が求められる家とはどのようなものなのでしょうか。
築30年になったら壊れてもいいの?
ー結露で傷むと、家はどうなりますか?
年々断熱性能が低下するため暖冷房費が増えるだけでなく、地震の際に壊れやすくなります。
地震があった際、視察に行くと柱の根元が腐って倒壊している家が多く見受けられます。柱の根元が腐っているのは、壁体内の結露が原因だと言ってよいでしょう。
地震が起きた後のニュースでは、しばしば「倒壊した家は築30年のものがほとんどでした」と報じられますが、築30年になったら壊れてもいいの?といつも疑問に感じます。
もちろん住宅を購入する際、一般の方が壁体内結露について深く勉強するのは難しいでしょう。住宅を売る側が確かな知識を持って家づくりができるよう、断熱・防湿性能に関して正しい認知が広まればいいなと思います。
楽に100年続く家を
ー築30年で壊れるのではなく、長く続く家を?
そうですね。自分たちより長生きする家をつくるにはどうすればよいか、日々考えながら家づくりをしています。
日本の場合、木造の家が多いためどうしても100年持たせるには努力と仕組みが要るんですよね。一方ヨーロッパは石積みの家が一般的なので腐りにくく、木造と違って壊しにくいため100年持たせるのは容易なんです。
日本に石積みの家を建てると、地震に耐えきれなくて壊れてしまいます。地域性や風土、天候などに差があるため、木造住宅の耐久性を飛躍的に上げていくことがとても重要です。
ー構造の違いも家の耐久性に大きな影響を与えるのですね…
たしかに構造の違いはあります。ただ、現在でもすべての世代で家が一軒建てられるわけではないため、今後は子・孫世代もずっと使えるような家が求められるでしょう。家のデザインや値段だけで決めるのではなく、性能や耐久性にもこだわって決めないと、健康被害や建て替え費用の負担など子々孫々に大きな影響を与えるのです。
構造の違いはあっても楽に100年続くような家をつくることが大切ですし、そういった努力をしていくことが今後の住宅業界に求められるのではないでしょうか。