「あの人はサイコパスだね」。一見、自信にあふれ魅力的に見えるが、関わるほどに常識外れの冷徹さなどに驚かされる人物をさして、そう評する場面がある。
では、「サイコパス」とは具体的にどんな類型の人物なのか。実は明確な定義はない。「精神病質者」と訳されるが、それってなに?というのが実際のところだ。
本連載では、サイコパスについて、ビジネス心理学の第一人者でもある内藤誼人氏が、その特徴、対処法、存在が多い職業などについて、時にデータを交えながら解説する。
第六回では、「サイコパスの計画性」について考察する。
※この記事は、内藤氏の著作『サイコパスの謎』(三笠書房)より一部抜粋・再構成しています。
犯行計画はいつでも「入念で緻密」
サイコパスというと、「衝動的に人を殺してしまいそう」といったイメージがあると思います。普段は誠実そうな一方で、それとはまったく別の顔を持っており、ある瞬間に豹変する。そんな印象があるからかもしれません。しかし、その思い込みは間違いであるようです。
むしろサイコパスの人は、突如、殺気をあふれさせて襲い掛かるのとは正反対に、入念に殺人計画を立てて、緻密に犯罪を実行する傾向があります。
カナダにあるダルハウジー大学のマイケル・ウッドワースは、125名の殺人犯にサイコパステストを実施しました。その上で、34名のサイコパス群と91名の非サイコパス群に分け、それぞれがどのような殺人をおかしたのかを調べてみました。
すると、サイコパス群の93.3%は、計画的に殺人事件を起こしていることがわかったのです。ほぼ十人中九人というかなり高い率で、サイコパスは計画殺人を実行していました。
一方の非サイコパス群はというと、計画的に殺人を行なっていたのは48.4%。残りは「激情に駆られて」殺人をおかしていました。
ウッドワースの研究結果によれば、両群の計画的に殺人をおかしていた人の割合の差は約2倍もあり、「思わずカッとなって殺してしまった」というケースは、むしろ「サイコパスでない人」に当てはまる特徴だと言えるでしょう。実際の殺人犯に実施した結果ですから、生々しいほどの説得力です。
サイコパスは、猟奇的な殺人を行なうものの、衝動に駆られてそうするのではなく、あくまでも計画にのっとってやっているのです。逆にいえば、残酷にみえる殺人を緻密に計画して行っているわけで、背筋が凍るような怖ささえ感じます。
「完全犯罪」を狙う知能犯
テレビのニュースで、不審者が昼間の路上で見境なく人を刺したりする通り魔事件が時折報道されます。「計画性がない」という点からすると、このような無差別の殺人を実行するような事件を起こす犯人はサイコパスではないということになります。
サイコパスは、愚かな人ではありません。優秀な経営者にも多いといわれるほど、デキる人が多い“人種”です。
どうすれば自分が逮捕されないかをきちんと考慮した上で犯行に及びます。みすみす捕まるような真似はしないのです。狙っているのは完全犯罪。その意味では、サイコパスは「知能犯」と呼ぶほうがふさわしいのかもしれません。
また、サイコパスは、職場などでも平気でハラスメントを行ないます。その一面だけをみると、やはり気分屋で、計画性などないようにも思えます。しかし、実際には自分の発言や行為をきちんと分析し、「この程度なら訴えられない」と見きわめているのです。
「ここまでなら許される」。そう判断して、セクハラやパワハラをしているのではないかと考えられます。なにをするにも相手より優位に立ち、支配下に置こうとする特性のあるサイコパス。
相手にしても、こちらが疲弊していくだけです。できるだけ接点を持たないようにする。それが、VSサイコパスの最大の防御策といえるのかもしれません。