「令和No.1キャバ嬢」として人気を博している女性インフルエンサーに、ロマンス詐欺疑惑と贈与税未納・脱税疑惑が浮上し、業界に波紋が広がっている。
告発したのは、彼女の太客で元交際相手の実業家Aさん。Aさんは「結婚を匂わせ、25億円以上貢がされた」と暴露し、領収書の名義改ざん(Aさんが買い与えたブランド品の領収書を彼女名義で発行)についても証言している。
一方的な告発のため真偽は不明だが、税金に関わる話題に「もしかして自分も……」と肝を冷やしたキャバ嬢やホストもいることだろう。
客からの“貢ぎ物”は、どのくらいの金額から贈与税がかかるのか。夜の業界で働く人々が知っておくべき税金のポイントについて、キャバクラや風俗で働く女性の税務相談を多く引き受けている税理士法人松本の代表税理士・松本崇宏氏に聞いた。
タクシー代やチップも課税対象? 税務判断のポイント
この騒動でAさんは、「彼女の整形費用や家賃も負担していた」と暴露している。夜の業界では、店を介さず客から直接現金を受け取ることを「裏引き(直引き)」と呼ぶが、松本氏によれば「裏引きで得たお金も申告の対象になり得る」という。
ただし、「裏引きも含め、客から受け取ったお金については、“3つの解釈”が可能」だとして、こう続ける。
「1つ目は、客からお金を借りたという解釈です。この場合、仮に入金があったとしても、借用書がありその後の分割返済があれば課税されません。
残り2つは、いずれも課税対象になる『贈与』『事業所得』です。後者は、キャバ嬢としての売上という見方ができます。
後述するように、事業所得(所得税)に比べて贈与税のほうが税率は高いです。また、事業所得の計算においては『必要経費』を差し引くことができます。つまり、キャバ嬢にとっては、事業所得として扱われるほうが有利です」(松本氏、以下同)
贈与か事業所得かは、契約において一方が提供した利益やサービスに対して、相手方がそれに見合う対価や義務を返す「反対給付」の有無によって判断が分かれるという。
「反対給付があるかどうかで、それが『贈与』なのか『事業所得(売上)』なのかが異なってきます。たとえば、パパ活で男性と食事に行き5000円をもらった場合、『2人で食事をするというサービスの対価として受け取った金銭』と見ることもでき、『事業所得(売上)』となる可能性があります。キャバ嬢がプライベートで客と会い金銭を受け取った場合も、何かの対価として貰ったと主張すれば、反対給付があったと見なされるかもしれません」
夜の店で働いていると、アフター後に客からタクシー代やチップをもらうことも多いが、これらもアフターに行くというサービスの提供の対価と考えれば事業所得として扱えるという。
「贈与」「事業所得」それぞれの“税”はどう計算する?
税理士・松本崇宏氏(提供:税理士法人松本)
「贈与」として贈与税が課税される場合と、「事業所得」として所得税が課税される場合とでは、計算上、どのような違いがあるのか。
まず、贈与税は、年間110万円までの「基礎控除」があるため、贈与額が110万円以内であれば非課税となる。また、累進課税方式が採用されており、贈与額が大きいほど税率も上がる。
たとえば、基礎控除後の課税対象が200万円以下であれば税率は10%、高額になるにつれて段階的に上がっていき、3000万円を超える場合は最大55%が適用される。この税率は、現金・物品ともに共通だ。
「キャバ嬢が1年間に11人の客からそれぞれ10万円相当のブランド品を受け取った場合、合計110万円で、贈与税は発生しません。しかし、12人からそれぞれ10万円相当の金品を受け取ると合計120万円になるため、基礎控除額110万円を引いた10万円が課税対象になります。受け取ったものがバッグなどの物品であっても、納税は現金で行う必要があるため、支払いに困る人もいるかもしれません」
他方で、所得税については、以下の計算式により算出した事業所得と他の所得を合算した金額に、累進税率が適用される。
〈事業所得金額=収入金額-必要経費〉
「贈与税は所得税よりも税率が高いため、『お小遣いもらった、ラッキー!』で済ませずに、きちんと『事業所得の収入として』申告したほうが、罰金のことを考えると結果的に税金を抑えられます」
ちなみに贈与税も所得税も、毎年3月15日までに申告・納税しなければ、「無申告加算税」が発生する。
もし渦中の元キャバ嬢がAさんの告発通り、25億円分にかかる贈与税または所得税(事業所得)を無申告だったとすれば、果たしていくらの税金を追納することになるのだろうか。
「所得税(事業所得)が無申告だった場合、累進課税制度により利益が4000万円を超えると超えた部分に対して所得税45%と住民税10%(合わせて55%)が課税されます。一方、贈与税も、前述のように贈与額が3000万円を超えると超えた部分は55%が課税されるため、どちらにしても最終的には利益の6割近く納税しなければなりません」
整形費用も経費になる? “夜の業界”で認められる経費とグレーゾーン
冒頭でも触れた通り、今回の騒動では、元キャバ嬢がAさんからもらった領収書を“自分の経費”として申告していた疑いも浮上している。
他人の領収書を利用して経費を水増しする行為は「仮装隠蔽」に該当し、「重加算税」という厳しいペナルティが課されるという。その税率は、申告後の税務調査で重加算税が適用された場合は35%、無申告で適用された場合は40%に上る。
ここで気になるのは、「キャバ嬢やホストは何をどこまで『事業所得の経費』にできるのか」という点だ。松本氏の見解はどうだろうか。
「基本的に、売上に直結するものが経費になります。ただしキャバ嬢やホストの場合、どこまでを経費とできるか判断が難しい部分があります。
支出には、事業所得の必要経費以外に、家事関連費・家事費があります。
家事関連費は、スマホ利用料など仕事の部分とプライベートの部分が混在するもの。家事費は完全にプライベートの出費です。キャバ嬢やホストの場合、特に問題になるのが前者で、仕事用とプライベート用を明確に分けにくい。特に化粧品代は、指摘されやすい項目ですね」
ヘアカラー&カット代(※ヘアメイク代は必要経費として認められる)やエステ代も、経費として認められるかどうかは「微妙」だといい、整形費用についても、交渉はできても税務署からは経費と見なされにくい実態があるそうだ。
過少申告&SNS投稿が招く“税務調査リスク”
その他、夜の業界で働く人々が注意すべき税務トラブルについて、松本氏は次のような事例を挙げる。
「よくあるのが、所得を過少申告している場合に、毎月のクレジットカード利用額から税務調査が入るケースです。たとえば、1か月の売上を20万円で申告しているのに、クレジットカードの引き落としが毎月30万円以上ある場合、税務署から売上の不自然さを指摘されるか、他に収入源があるのではと疑われやすくなります」
さらに、近年ではSNSがきっかけで申告漏れが発覚するケースも多いという。
「ここ10年ほどで、国税局もキャバ嬢やホストのSNSをチェックする機会が増えているそうです。しっかり申告していれば問題ありませんが、無申告だとSNSの投稿をきっかけに調査が入ることもあります。
レンタルしたものを『買った』『もらった』とSNSに投稿し、それが調査の発端になったケースや、ホストが『俺は〇千万円プレーヤーだ!』と現金を積み上げた写真を載せたところ、税務調査が入ったケースもあります」
見栄のためにSNSで金品を披露するのも考えものというわけだ。事業所得や贈与はあくまで自己申告制。真面目に申告するかは良心にゆだねられているが、「これくらいなら大丈夫」と思っていると、痛い目に遭うかもしれない……。
取材協力:税理士法人松本(
https://www.tokyo-consulting.com/
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