伊藤啓子さん50歳。子どもの頃からの夢だった「ごはん屋さん」を立ち上げるため、現在、アパレルの仕事を続けながら、パートナーとともに移住先の山口県とアパレル会社のある東京と2拠点生活を送っています。
 前回(vol.2)では、これまで関わってきた仕事や移住先の住まいなどの課題に向き合った伊藤さん。今回から、ごはん屋さん開業へ向けての具体的なお話に。準備を進めていく過程で、故郷へ思いが強くなったことなど、心境の変化も語られます。伊藤さんのチャレンジはスタートしたばかり! 
これから移住や新しいことを始めようと考えている方も、50代からの移住とチャレンジ、ぜひ参考に!

<出店場所を決めた理由>
生まれ故郷の美味しい野菜が味わえる食堂にしよう


(上写真)一目惚れした出店場所は、田園風景が広がる田んぼの真ん中。写真は小麦の収穫前、黄金色のカーペットが一面に広がっています。

 2024年3月、パートナーとともに東京から山口へ移住をしました。いよいよ「生まれ故郷の山口で、ごはん屋さん」の夢へ向かって始動です!
移住先で自分たちの生活の基盤をつくりながら、ごはん屋さんの準備も同時進行。開業に向けては、出店場所を決めることが先決でした。実は出店場所は移住前に決めていました。それは田んぼの真ん中(写真)。この景色に一目惚れでした。
 ここは、私の生まれ故郷である山口市名田島(ナタジマ)です。農業用地として埋め立てられた地域で、見渡す限り田んぼが広がる、コンビニもない田舎です。移住前から出店場所を探していた私は、あるとき母に案内されて、この場所で地域の農家さんが運営する野菜直売所を訪れました。お店の名前は「きまぐれ直売所」。偶数日の朝9時からオープン、この地域で当日の朝に収穫された野菜が並びます。きまぐれの名前の通り、何があるかは行ってみないと分からないし、売り切れたら午前中で閉店します。
 最初に訪れたときに出会ったのが、とうもろこし。
「生でも食べられるよ」と言われ、こわごわ食べてみると「とうもろこしってこんなに甘くてジューシーなの!?」。今まで食べたとうもろこしとは別次元の美味しさに、衝撃を受けました。


(上写真)衝撃のとうもろこし。定番の黄色も美味しいですが、こちらの白色は驚くほど甘みが強くて、1本ぺろりと食べられます。

 野菜はどれも、みずみずしく、野菜本来のしっかりとした味がします。数十年近く故郷から離れていた私は、こんなに美味しい野菜があるなんて、本当に驚きました。そしてなにより、働いているお母さんたちがとてもパワフルで可愛らしい。私の両親と同じ世代のみなさんが、明るく元気に仕事をしている姿に「私もあんな風に歳を重ねていけたらいいな」と思いました。
 こうした出会いから「ごはん屋さんは、生まれ故郷である名田島にしよう」「この土地の美味しい野菜を使ったごはん屋さん=食堂にしよう」そう決めたのです。


(上写真)「きまぐれ直売所」には旬の野菜が並びます。お母さんたちとの会話は楽しくて、朝から笑い声が絶えません。

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<地域との関係づくり>
農家さんを訪れて交流を。「地元出身」が功を奏した


(写真)農家さんのお手伝い。ビニールハウスでのトマト栽培を初体験。室内の暑さに驚きでした! 美味しい野菜を作るのは本当に大変な仕事です。

 生まれ故郷の名田島にお店を出すことに決めた私は、移住してから地域との交流を始めました。「きまぐれ直売所」で販売のお手伝いをしたり、農家さんを訪れたり、野菜の出荷場所で出待ちをして突然、話しかけたりもしました。
みなさん、突然知らない人に話しかけられてびっくりされますが、幸いなことに「名田島の伊藤です、父親は〇〇です。約30年ぶりに戻ってきました!」と伝えると「〇〇さんの娘さんね! おかえりなさい」と温かく迎えてもらえました。
 知らない土地に移住すると地域との関係作りから始まると思います。が、私の場合は地元だったため、受け入れてもらいやすかったことは、とても良かったと思います。