フジテレビが「大リーグ中継」理由に取材パス一時“はく奪”…NPBの対応は「報道の自由」の侵害? 弁護士が指摘する問題点とは

今年の日本シリーズを制し、リーグ3位から、日本一に輝いたDeNAベイスターズ。11月30日には優勝パレードが行われ、まだまだお祝いムードが続いている。

この「26年ぶり悲願の日本一」の裏側で、日本野球機構(NPB)とフジテレビの間でも“波乱”が起きていたことが、テレビや新聞などで大きく報じられた。

日本シリーズと同時期、米メジャーリーグではワールドシリーズ(WS)が開催されており、フジテレビはWSの全試合を生中継。

大谷翔平選手が所属するドジャースと、名門ヤンキースの対決に注目が集まる中、フジテレビは朝の時間帯の生中継だけでなく、日本シリーズの第1戦、第2戦を他局が生中継している裏側でも、WSの試合ダイジェストを放送した。

この対応を問題視したNPBは、フジテレビに発行していた取材パスを“はく奪”。現在は解除されているとのことだが、日本シリーズ終了後も、11月9日、10日に行われた野球日本代表「侍ジャパン」の強化試合において、取材パスは発行されなかったという。

複数のスポーツ紙によると、フジテレビの小林毅専務は11月29日、同局の定例社長会見で「NPBとの間で見解の相違があった」と一連の騒動について説明。

また、港浩一社長はNPBと「関係修復の最中」であることを明かしたという。

弁護士「直ちに違法となるわけではないが…」

取材パスの“はく奪”は大きな話題となり、SNS上では「報道の自由の侵害では」「NPBは器が小さい」といった意見が見受けられたほか、一部のメディアからも、NPB側の対応を疑問視する有識者のコメントを紹介した記事が出されるなどした。

ただ、報道の自由や表現の自由は憲法21条で保障されているが、憲法は基本的に「国家対私人」を規律するものであり、今回の騒動は一般社団法人であるNPBと、企業であるフジテレビの間で生じたことだ。

では、法律や憲法と照らして一連の騒動を考えた場合、NPB側の対応には問題はなかったのだろうか。報道の自由や表現の自由に詳しい杉山大介弁護士は次のように解説する。

「たしかに、憲法21条が直接問題とするのは公と私の関係です。

また、NPBには『取材を受けない自由』もありますから、取材パスを“はく奪”するという行為自体が直ちに違法となるわけではありません。

しかし、プラットフォームの提供者にしろ、大型のコンテンツに関わる立場にしろ、『言論市場を支配し操作できるような立場にあるもの』が実際に言論を支配するという行為を、表現の自由を保障した法理念が是としているわけでもありません」

“スポンサーへの配慮”説「事実ならかなり不当」

取材パス“はく奪”の理由について、NPB側は「日本シリーズの価値を最大化するため、全てのプロ野球関係者が協力してきたが、(フジテレビがWSダイジェスト放送を行ったことで)協力体制が損なわれ、信頼関係が著しく毀損(きそん)された」といった趣旨の説明をしたと報じられている。

この“理由”について、杉山弁護士は「もし裏番組の放送が理由なのであれば、それは表現の自由的な観点だけでなく、独占禁止法的な観点からも問題になると考えられます」と指摘する。

「各スポーツ興行がどのように放映権を売り、利益をあげるかは基本的に自由であり、むしろ、同じ時間に同種の放映が提供され、視聴者(消費者)が自由に番組を選択できる環境の方が、自由競争市場的であると評価できます。

にもかかわらず、取材パスの“はく奪”という、本来の興行の価値とは異なる『ペナルティ』を科して、ライバルの興行が利益を得にくくするのであれば、それは市場において望ましくない行為になります。

NPBの規約がどうなっているかは別として、規範的視点で『正当か不当か、どっち寄りの印象を受けるか』と言われれば、私は『不当』寄りではないかと感じました」

また、この騒動をめぐっては、日本シリーズのスポンサーが三井住友銀行である一方、WSで注目を集めた大谷選手には三菱UFJ銀行がスポンサーとしてついていることから、「NPBがスポンサーへ配慮した結果、フジテレビへの処分に至ったのでは」との臆測が一部のメディアやSNS上で取りざたされている。

こうした臆測についても、杉山弁護士は「仮に、もしそのような話が事実であるのであれば、かなり不当で自由市場的でない行為だと感じます」とコメントした。

一部ではフジに批判の声も…「視聴者が選べば良いだけ」

一方で、今回の騒動では、フジテレビ側への批判の声も少なくない。

フジテレビは今年5月に大谷選手の新居を過剰に報道するなど、プライベートに踏み込んだ内容の報道が原因で炎上。WSの中継でも、優勝を決めた大谷選手への直接インタビューが「拒否されたのではないか」との疑惑が報じられていた。

こうしたフジテレビによる度重なるトラブルもあいまってか、今回のダイジェスト放送についても、「わざわざ再放送をぶつけなくても」「節操がない」といった意見がSNS上などで上がっていたのだ。

しかし、杉山弁護士はあくまでも冷静に、以下のように述べる。

「日本シリーズを見るのも、WSの録画を見るのも、視聴者が選べば良いだけです。

そもそも、この世界に2つの放送事業者しかいないわけでもないですから、『好きに放送し、好きに見る』が原則であるべきですね」