水を求めて伸びる根の性質
もう少し、水やりについて深掘りしていきましょう。
長年ガーデニングに関係していて感じることは、植物にとって重要かつ基本的な水やりを、間違って行っているケースがあるということ。単に「水やり」、水分の供給だけをしていて、水がもたらす植物の影響については考慮せずに水やりを行っているのです。
植物が成長する上で、水やりを工夫するだけで育ち方が全く違うことは、ぜひお伝えしたいと思います。
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植物と水の関係を見る際、これだけは押さえておきたいポイントは、「植物は水を求めて根を伸ばす」ことです。これは「根の成長応答」として知られており、植物の根は水分や栄養分が豊富な方向へと伸びる性質を持っています。このメカニズムは 水分屈性とも呼ばれ、水分が多い環境を探して根が成長する性質です。
この性質をきちんと理解することで、無駄な水やりをしなくて済み、労力を省くことができるだけでなく、植物がより元気に育ってくれます。
まずは、植物の根のメカニズムについて詳しく見ていきましょう。
1. 水分センサーの働き
植物の根には、土壌中の水分濃度を感知するセンサーがあり、より湿度の高い方へ曲がって成長します。水分が多い方向へ成長を促進させ、水分が少ない方向へは成長を抑制することで、効率的に水を吸収できる方向へ根を伸ばすというわけです。この仕組みがあるため、土に湿った部分と乾いた部分がある場合、植物は水が多い部分に根を伸ばし、乾燥した部分にはあまり根を広げません。
2. 水不足時の根の成長促進
水分が不足すると、植物は水分を求めて根をさらに深く、広く伸ばします。これにより、土壌の中で少しでも水分がある場所まで根を到達させ、水分を吸収しようとします。このように、植物は環境に応じて根の成長パターンを変化させることで、生存率を高めています。
3. オーキシンなどの植物ホルモンの役割
植物ホルモンの一種であるオーキシンは、根の成長に関与しており、水分の多い方向へ根が伸びるように調整します。オーキシンの働きによって、根は柔軟に方向を変え、水を求めて成長を続けます。
4. 土壌の硬さや栄養素の影響
水だけでなく、栄養素が多い方向にも根は伸びる傾向があり、水分と栄養が揃っている場所では根がより集中的に成長します。また、根は土壌の硬さによっても成長を調整し、柔らかくて成長しやすい部分に根を伸ばすことで、効率的に水分と栄養を吸収するようにしています。
このように植物は水分を感知し、その方向へ根を成長させて水を求めます。この働きにより、植物は少ない水分でも効率的に吸収し、生育環境に適応しています。このことを理解すると、水やりのやり方について改めて見直す必要性が見えてきます。
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地植えの植物に水やりは不要!?
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このような根の性質を理解したうえで、水やりの実践的な方法としての重要なポイントは、「地植えに水やりは不要」ということ。
庭にしろ菜園にしろ、水やりを頑張っている方が結構います。私の親も、夏はポリタンクに水を入れてわざわざ畑に持っていき、忙しそうに水やりをしては疲れています。ですが、地植えであれば、本来こうした労力は減らしてもよいものなのです。
なぜ地植えに水やりが不要かというと、先ほど述べた通り、「植物は水を求めて根を伸ばす」から。水やりをいつもしていると、植物はわざわざ水を求めて根を伸ばす必要がなくなります。そうすると、過保護に育った甘えん坊に。いつも水やりをしてもらうことに慣れ、自ら水を求めて根を伸ばさないので、人間が世話をしないと育たない軟弱な植物になってしまうのです。
このような植物は環境の変化にも弱く、人間が手を抜けばすぐに弱ってしまいますし、猛暑や嵐などの過酷な環境にも耐えられません。親が料理を作って子どもに与えているだけでは、子どもはいつまで経っても料理を自分で作ることができず、親がいないと食べていけないような感じですね。
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良くも悪くも植物は環境適応能力と学習力が高く、育てる人をそのまま映し出します。
植物を育てる皆さんは優しい人ばかりだと思います。しかし、その優しさが必ずしもよい結果を生む訳ではないのが、植物を育てることの難しさであり奥深さです。それは子育てと全く同じですね。
人間も植物も生き物にとって重要なことは、「自立」させることです。
自然界の生き物はどれも自立して生きていますね。いかに自立を妨げず、それぞれの個性や潜在能力を引き出すかが、とても大切です。
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ここで注意すべきことは、それぞれの環境を俯瞰してよく観察し、それに応じた手入れをするのが大切だということです。
先ほど、地植えならば水やり不要と言いましたが、あくまでも一般論。それを鵜呑みにするのではなく、それぞれの環境に応じた適切なケアが必要になります。
例えば、軒下や壁際は雨が当たりにくい、コンクリートに囲まれて暑くなりやすい、花壇が立ち上がっていて日差しが当たりやすいなど、庭の環境はさまざま。このような雨が当たりにくい場所や、太陽の熱で土や植物が温まりやすい場所は、通常より水分が蒸発しやすく、必要に応じて水やりが不可欠です。植物や環境を観察してしっかり向き合い、そのニーズを感じ取ることがとても大切です。
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物言わぬ植物だからこそ、私たちに沢山の気付きを与えてくれ、感性を豊かにする素晴らしいパートナーになってくれます。
水やりを工夫して労力を削減するだけでなく、お金をかけずに環境にも植物にも優しい雨水を利用したり、ほんのひと手間かけて水道水のカルキ抜きをして、大切な植物をより一層元気に育てていきましょう。
Credit
文 / 持田和樹
アグロエコロジー研究家。アグロエコロジーとは生態系と調和を保ちながら作物を育てる方法で、広く環境や生物多様性の保全、食文化の継承などさまざまな取り組みを含む。自身のバラの庭と福祉事業所での食用バラ栽培でアグロエコロジーを実践、研究を深めている。国連生物多様性の10年日本委員会が主宰する「生物多様性アクション大賞2019」の審査委員賞を受賞。
https://www.instagram.com/rose_gardens_nausicaa/?igsh=MW53NWNrZDRtYmYzeA%3D%3D