バブル期に販売された高利回りの「お宝保険」。保険会社にとっては大赤字のお宝保険ですが、低金利の現在、どのようにその穴埋めをしているのかご存じでしょうか? 本記事では、我妻佳祐氏の著書の『金融地獄を生き抜け 世界一簡単なお金リテラシーこれだけ』から、保険業界の深刻な実態と若者にとっての保険について、本記事で詳しくみていきましょう。

若者に「お宝保険」の赤字を埋めさせる保険業界の「逆ざや問題」

いまの保険業界はかなり無理のある経営を強いられています。「むちゃくちゃな状態」といってもいいでしょう。前にもいったとおり、私は大学院で保険の研究をしていたときから、そこに大きな疑問を感じていました。

いまの保険業界がおかしくなったのは、1980年代のバブル期と比べて金利が大幅に下がったことがいちばんの原因です。バブル期に販売した生命保険は5%程度の高利回りでした。いまではこのような高い利回りが保証された金融商品はどこにもありません。このような保険を「お宝保険」と呼んだりもします。

ところがゼロ金利の時代となり、バブル期に約束した運用利回りなど、達成できるわけがありません。このように、保険契約開始時点で保証した利率よりも実際の運用利回りが下がってしまうことを「逆ざや」といいます。

これだけ金利が下がったのですから、予定利率5%で販売した生命保険は当然ながら大赤字。でも、契約者との約束は守らなければいけないので、何らかの形で赤字を埋めなければいけません。1990年代半ばから2000年代にかけて、それができなかった保険会社7社が相次いで潰れました。

生き残った保険会社がとった手段

では、生き残った保険会社はどうやってその赤字を埋めてきたのか。高利回りを稼ぎ出せないことは潰れた会社と変わりません。ですので、新たにたくさんの契約者を獲得して、保険料を集めるしかありません。生命保険の新しい契約者は、その多くが若い世代でしょう。つまり若者から集めた保険料をバブル期に契約した年長世代への支払いにあてることで、苦しい状況を乗り切ってきたのです。

しかも、いまは超低金利時代なので、若い世代に約束される予定利率は1%程度。そんな悪条件で保険料を払っている人たちが、バブルの頃に5%を約束された「お宝保険」の穴埋めをしていることになります。

手元で計算してみたところ、30歳男性が保険金額300万円の終身保険に入るときに、予定利率5%であれば月々の保険料は1,455円のところ、予定利率1%では月々の保険料が5,079円と、なんと3倍超にもなっています(保険料の払込みは65歳まで、標準生命表2018で試算した平準純保険料)。単純な比較でもこれほどの差がある上に、バブル期の予定利率5%の契約の赤字は予定利率1%の契約が埋めているわけですから、若い世代はもっと負担している可能性も高いわけです。

人生のステージを考えれば、よりお金がかかるのは若い世代でしょう。結婚や出産で家族が増え、住宅ローンを組むかもしれません。だからこそ、万が一のときのために生命保険に入るわけです。

一方、年長世代はこどもが独立し、住宅ローンも払い終え、もう家族のための生命保険などそれほど必要ではありません。にもかかわらず、年長世代の5%の利回りを支えるために、若い世代が1%の低金利に耐えているのです。

そうやって穴埋めされている金額は、少なくとも年間数千億円になるでしょう。もしかしたら「兆」のケタになるかもしれません。大赤字の穴埋めが不要なら、それだけのお金が若者世代に戻ってくると考えると、保険料を払うのがばかばかしくなるのではないでしょうか。

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若者を犠牲にして保険会社を守った日本

バブル期に予定利率5%の保険契約を販売してしまったところまでは仕方ない面もあるでしょう。誰もそのあとあっという間にゼロ金利まで金利が低下してしまうとは想像もできなかったと思います(当時は10年国債の金利が4%を割ったことはありませんでした)。

しかし、現実に金利が下落してしまい、回復の見込みがなくなった時点で、予想される損失を誰が負担すべきなのかについては、もっとしっかりと考えるべきであったと思います。現実としては、あまり議論されることもなく、なしくずし的に若い世代が負担することになってしまいました。

これは過去の問題ではなく現在進行形の問題でもあります。いまからでも遅くないので、しっかり議論されるべきだと思います。その上で、若い世代が「バブル期のお宝保険の損失を我々の世代が負担してあげようではないか!」という結論に達するのであれば、現状維持でよいとは思いますが。

海外からの反応

金融庁に勤めていたとき、イギリスの保険監督官にこの件について質問したことがあります。その人からは「何を聞かれているのか正確に理解できていないかもしれないが、ふつうはそんな状態になる前に保険会社を潰すだろうから、そんなことは起こらないのではないか」という困惑した回答が返ってきました。

また、これは私が直接聞いた話ではないのですが、私の上司がドイツの保険監督官から「日本はなぜ急激な金利低下でも生命保険会社が耐えられたのか?」と問われ、上記のような説明をしたところ、先方はあきれたような顔をしていたそうです。要は、国民を守るのが保険監督の目的なのに、若者を犠牲にして保険会社を守った日本の保険監督が理解できなかったということでしょう。

諸外国では、保険会社が国民に損害を与えそうな状況になるとまだ資金に余裕のあるうちに保険会社を潰すのが常識的な対応ですが、日本では保険会社が債務超過になってクビが回らなくなるまで営業させ、損失が膨らみきったところでしぶしぶ保険会社を潰すという対応をとってきました。

諸外国と異なり、日本では「債務超過になるまで保険会社を潰してはいけない」という誤った思い込みがあり、債務超過にならないように保険会社に利益を貯め込ませるように指導していることが、日本の保険の保険料が高いことの一因になっています。